特集 古代の超高層新築工事

古代の高層建築物を新築する施工法を図解

国宝「袈裟襷文銅鐸」をご存知の方も多いと思います。江戸時代に讃岐国(現在の香川県)で発見されたと伝えられ、弥生時代(前2~前1世紀)の「棟持柱家屋」が刻まれた銅鐸です。古代の高層建築物としては、棟持柱はありませんが、青森県の三内丸山遺跡に復元された大型の掘立柱建物も有名ですね。
現代のように大型のクレーンもなかった時代、多分ツタやツルなど植物で編んだ綱だけを使い、いかに高層の建築物を建てたのか気になる、気になると建築の立場からその施工方法を考えたくなった。

国宝「袈裟襷文銅鐸」棟持柱家屋 イラスト 

施工法を描くにあたり、銅鐸に描かれた線1本が、1本の木材と考え、材の内外位置を判りやすくするため2本線で表しました。また高床部分の2本の線は、太い材を表しているのかとも考えられたが、銅鐸の写真を拡大してみると、両端の柱から線が飛び出し、井桁に組んでいると思われたことから2段の床桁と考えています。建築の立場としては桁材を2段にする意味として、この間に直行する妻側の材料を挟んだものと思われる。また、屋根を支える桁材も2段になっているが、最上部の桁だけ柱の外側に桁が配置されているように見えることから、最上部の桁だけ外側に配置しているとした上で施工方法を考えています。

材料と道具

古代の超高層建築 使用材料 道具 仲間たち

施工道具:石斧、錐、綱、岩石
使用材料:木材(丸太)、竹、笹、藁、小枝、茅、その他
施工人数:20名ほど。

長尺柱の建て方

一番の悩みどころは、あの長尺の柱をいかに建てたか?もちろん諸説あるでしょうし、私が知らないだけで、誰かがすでに考えた方法と一緒かもしれません。
石材のオベリスクの立て方は、スロープで高所まで持ち上げ、斜面に沿って滑り落とし穴の中に入れた、という説が有力視されているようです。高床家屋に使用されているのは、木材の丸太で石材より軽いといっても、長尺で太い丸太を建てることは、そんなに簡単ではない。
では、どのようにして長く太い丸太を建てたのだろうか。
それは、テコの原理を応用ではなかろうか。そんな縄文時代や弥生時代にテコを応用するなんて・・・と仰る方もいるでしょう。しかし古代人をなめてはいけません。高床式住居の組み立て時に何かの拍子で倒れた材料に綱が絡まり、それを引っ張ってみると軽く感じたなど、長い年月、多くの建物を建てているうちに、何かしらのヒントがあったであろうと推測します。

柱の建て方 1

テコの原理を応用し柱を建てるにも、柱穴に柱を建てる方法として、幾通りか考えられます。
最初に想像してみたのが上の方法です。
柱穴の上に柱と直角に縛り付けた丸太を渡し、引っ張る方法です。この方法だと柱穴には1/4円状に掘っていなければなりませんが、そのような痕跡が残っている柱穴は、残念ながら私の知る限りでは発掘されていないようです。

長尺柱建て方 2

次に柱を滑らせてみましょう。柱の回転軸にするため横材を縛りつけ、その下に小径の丸太を数本並べ、その上を滑らせる方法です。この方法は各地の古代遺跡に使用された、重量物の移動手段としてはよく見かけます。丸太のままでは滑りにくいと思われますので、油のようなものを塗り、滑りを良くしたことでしょう。あまり横材と敷いた丸太の間に抵抗がないと、逆に柱を建てにくくなりますから最も現実的だったかもしれません。

長尺柱建て方 3

次の方法は、竹や小径の丸太をコロとして使い、その上を柱を転がしながら柱穴に徐々に入れる方法です。この時代にコロなんて使っていないとのご意見もあるかもしれませんが、竹の上に足を乗せてしまい転倒した人もいるでしょうから、それをヒントにコロを使う方法に気づいたとしておきましょう。しかしこの方法では、長尺柱を移動させやすいでしょうが、柱に回転軸として縛り付けた横材とコロに間に抵抗が少なく、長尺柱を建てるには難儀したでしょう。
そこで、遺跡の柱穴横の窪みに岩石を置き、柱穴に長尺柱を埋め込みやすくしたのではないでしょうか。

長尺柱建て方 4

新築工事

新築工事 1

新築工事1
当初は柱を1本づつ建てたと考えてもみましたが、それでは柱に桁を縛る時、人が籠に乗り釣り上げて作業をしたとしても、あまりにも不安定ではないだろうか。また桁を釣り上げるとしても縄を掛ける場所も無い。作業性も悪く、安全性にも問題が多い。今なら労働基準監督署が飛んで来る。しかし地上で建物片側の4本柱と屋根桁を縛りつけ、一緒に建てることを考えれば、安全で作業性が良いことに気がついた。現代の建物は下から順番に建て方を行うが、古代人は上から組むことを考えたに違いない。

新築工事 2

新築工事2
イラストでは4本の柱を一緒に建てているが、あまりにも重いようであれば、両端の2本を建てたかもしれません。次の工程では屋根の桁部分に綱を掛け、籠に入った人を吊るすので、安全性や強度の点からも4本同時に建てたいですね。

新築工事 3

新築工事3
屋根桁も縛り付けた長尺柱を建てた後、その屋根桁に綱を掛け、床桁の上の1本を吊り上げるとともに、人間用の乗る籠を吊り上げ床桁の取り付け作業になります。これで両手を使って床桁を強固に取り付けることが可能となります。

新築工事 4

新築工事4
次の工程は反対側の柱を建てます。今回は既に建てた側の桁に綱を掛け引き起こします。イラストでは屋根桁と床桁1本、合計2本の桁を地上で組み立てます。多分これでも引き起こしやすいので大丈夫ではないでしょうか。もちろん無理そうであれば屋根の桁1本だけ縛り、床の桁は新築工事2と同じ方法で作業をします。

新築工事 5

新築工事5
桁方向の柱を建て、上側の床桁を1本取り付けた後、妻側の床梁を吊り上げ、桁側の床桁の下に各2本取り付けます。もちろんこの作業の前に柱が垂直に建っているか、下げ振りなどを使い確かめたか、誰か目のいい人が垂直の確認をしていたでしょう。
そういえば、長い橋梁の橋脚を垂直に建てると橋脚の間隔が上下で違うと聞きました。そう地球は丸いからです。

新築工事 6

新築工事6
妻側の床桁を各柱に2本ずつ縛り付けた後、妻桁下に桁側の床梁を取り付けます。桁材は下から綱で引き上げていますので、しっかりと固定できます。

新築工事 7

新築工事7
床桁と床梁が全て組み上がりました。

新築工事 8

新築工事8
床に敷く材料を吊り上げます。材料は竹や小枝、笹、葦、茅、蔓、蔦など近隣に生える植物を使用したことでしょう。床梁が2本並んでいることも、1本より作業の安全性が高まります。

新築工事 9

新築工事9
床は最初に竹もしくは小径の丸太を床梁と床桁に綱で縛り固定します。その上に小枝を敷き、さらに茅を敷き詰めたかもしれません、この吹き方は竪穴住居の屋根と同じ手法です。しかし床であれば、小径の丸太や竹を縛り付けただけでも、人が乗って何ら支障なく活動することができたでしょう。さらに笹や茅であれば、やはり切り傷が絶えなかったことと思います。竹や丸太であれば傷つくこともないでしょう。

新築工事 10 「上棟」

新築工事10
さて新築工事の大きな行事、最重要の工程を迎えます。棟持柱と胸を縛り、固定した材料を引き起こします。建物も床組で固定されたおり、屋根桁に綱を引っ掛け、棟を固定した胸持柱を引っ張り上げても、建物の強度は問題なかったでしょう。この施工方法であれば、棟持柱が建物本体と離れて建てた理由がの一つではないでしょうか。

新築工事 11

新築工事11
棟木を取り付けた棟持柱は、ある程度の重さもあったでしょうから、棟上げには、綱を引く者や先端が二股に分かれた木起こしの棒を持つ者など、皆が総出で建てたでしょう。柱穴には岩石を置き、柱がうまく柱穴に入るようにしています。

新築工事 12 「上棟の祝い」

新築工事12「上棟式」
棟持柱建物本体が、祭礼のための建築物であるとする意見もあるようだが、現代のように建設機械もない時代に、これほど大規模建築物の上棟が完了した時点で、祭礼が行われたに違いない。建物前に祭壇が組まれ、海の幸山の幸が備えられ、苦労話や無事に棟上げを完了したこと、次回の改良箇所などを話し合っていたのだろうか。

新築工事 13

新築工事13
棟木に綱を引っ掛け、屋根の妻梁を吊り上げ固定します。屋根桁が柱より出っ張っているので、先端が二股になった押し棒で、屋根桁をかわし桁上に乗せ、取り付けます。屋根の妻桁は各柱位置に取り付けたかもしれませんが、ここでは、特に建築工事に必要がないと判断したので省いています。

新築工事 14

新築工事14
階段を取り付けます。先に取り付けた屋根妻梁に綱を掛け、階段を吊り上げ高床に乗った人が引き寄せ、階段を設置します。階段は丸太を半割りにして、段を石斧で刻んだでしょう。

新築工事 15

新築工事15
屋根垂木の取り付け。小径の丸太もしくは竹を垂木として、棟木に籠付きの綱を掛け、人を持ち上げ屋根桁と棟木の間に垂木を渡し固定します。垂木は斜めに交差させることで前後方向の揺れにるよくなり、屋根桁と棟木を固定することで生じた三角形が多少細い棟木であっても、構造強度上問題はなかったと思います。

新築工事 16

新築工事16
いよいよ最後の工程、桁側の屋根桁を取り付けます。棟木に綱を掛け屋根桁を建物の外側に釣り上げ、屋根垂木の上に固定します。ここでも屋根垂木が柱より張り出していますので、押し棒で屋根垂木をかわし垂木上に乗せます。取り付けには屋根桁に綱付きの籠を引っ掛け、作業する人を吊り上げます。

完成

完成
以上の工事工程を経て独立棟持柱建築は、クレーンを使用しなくても綱を使用するだけで完成します。銅鐸に描かれた絵だけで想像した工程ですし、私は現地調査もしていないので、多少の間違いはあるかもしれません。そこは建築家が限られた道具だけを使い、豊かに想像力を膨らませ、高層建築物を施工する場合の工事工程です。