5人家族のガレージハウス

木の家づくり物語[第3話]
5人家族のガレージハウス

5人家族のガレージハウス

プロローグ

車のドアが閉まる音がし建次が玄関へ向かうと、青木一家が斑雪を踏みしめ、こちらへやって来る。

「ようこそ、いらっしゃい」
建次は玄関戸を開け、声をかける。
「はじめまして、青木です。今日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

平家の事務所に入ると、正面には大きな無垢板のテーブルが置かれ、天井のトップライトからは春の日が差し込んでいる。

「あらためて青木和也です。こちらが妻の尚子、娘の由香、知也、亜弥です」
「建次です。今日はよろしくお願いいたします。メールでは何度かやりとりさせていただき、おおよそのご希望は伺っていますが、ガレージハウスをご希望ということですね」
「そうです。今年の雪が凄く、現在住んでいるマンションの駐車場から3日も車を出すことが出来ず、とにかく大変でした。車社会の地方では積雪があっても車を出せなければ、自宅内孤立を招く恐れがあることを実感しました。建築予定地は妻の実家から譲り受ける予定なのですが、郊外で近くにスーパーやコンビニもなく、とにかくガレージがある家を計画したいんです。車もスバルの四駆に替えるつもりです」

2021年「令和3年豪雪」とも呼ばれる豪雪は、北日本から西日本を中心2020年12月14から2021年1月11日にかけ断続的に各地で観測史上記録的な積雪を記録した。この期間除雪などにより死者は27人、重症者69人、軽傷者297人。住宅でも281棟に被害が生じる大災害となる(1。北陸地方の国道や高速道路では大規模な立ち往生が発生し、自衛隊が救出に出動する事態となった。(1参考:Wikipedia

「本当に今年の冬は大変でした」
建次は大雪だった1月を思い出しため息混じりに呟く、
「ところで青木さんのご希望するガレージハウスとは、居住スペースに車も入れることを、お考えですか?それとも切り離して考えますか」
先にメールで受け取った家族構成には青木の趣味が「車」と書いてあったことを思い出し聞いたのだが、
「子供が小さいので、車はリビングに入れないでくださいね。あなた」
と、すかさず妻の尚子が答える。
苦笑いしながら
「もちろんガレージは別でお願いします」
と和也は残念そうに答えた。


青木家の家族構成

青木和也39歳・尚子37歳・由香12歳・知也9歳・亜弥2歳


[ 基本計画 ]
[ 玄関・パントリー ]
[ 洗 面 ]
[ 収 納 ]
[ 階段・トイレ ]
[ 脱衣・浴室 ]
[ キッチン ]
[ 和室4.5帖 ]
[ 居間・サンルーム ]
[ ガレージ ]
[2階 階段・トイレ ]
[ 2階 子供室 ]
[2階 寝室・WIC ]

ファーストプラン


基本計画

限られた予算・床面積の中に施主が希望する部屋数と床面積を確保し、希望以上の住宅に仕上げるには、無駄な空間を作らずシンプルな基本計画が重要だ。特に今回は1間幅の収納を設けた4.5畳程度の子供部屋を3室、寝室はできれば8帖にWICを併設し、2階にもトイレを設置たいと希望していることだ。

建次はこの希望を満足させるため、天井高さを低く抑えられる玄関や収納、和室、水回りの上に2階を配置する総二階の建物に、天井高さを確保したい居間部分を下屋根とした基本計画を考えた。

先ずは無駄な空間を作らずシンプルな5.5×3.0間、16.5坪の2階間取りを決めた後、階下に先ほどの各部屋をレイアウトし居間を設け、ガレージは道路からの視線を遮る位置に設置した間取りを仕上げ、ファーストプレゼンの場に臨んだ。


玄関・パントリー

5人家族のガレージハウス|玄関・パントリー

「玄関収納はないのでしょうか」
和也は怪訝な顔で聞いてくる。

建次はプレゼンテーション初っ端から痛いところを突かれ、頭をかきながら答える。
「玄関収納を希望されているのは承知しています。それでこのパントリーを設けてあるのですが、玄関収納といえば下足で入れる場としてのイメージが強いのですが、ここは下足を脱いで使うことになり、台所の近くにあるのでパントリーとして表記しています。
ただ、どうしても下足で入れる玄関収納をご希望でしたら、このポーチ部分を玄関収納として使うこともできます」

「このパントリー部分を食品庫と一緒にして、道路側を土間にしたら良いのでは」
すかさず尚子が答える。
「もちろん何度も検討しました。この間取りで何度も検討を繰り返したのが、この玄関周りなんです。住宅全体に回遊性があり動きやすい家を考えています」
「回遊性ですか」と尚子。
「そうです、この家でしたら1つは居間からサンルームを通り玄関、脱衣室、和室。もう1つはキッチンから食品庫、玄関、脱衣室へと通りぬけできます」

「本当だ、図面を見ただけでは気付かなかった」
妻の尚子は目を丸くして呟く。
苦い顔をしていた和也の顔がゆるみ、
「イヤー、やはり説明を受けないと、図面だけ見ても分からないものだね」と続く。
「そうね、この食品庫とキッチンへの動線も気に入ったわ、パントリーもガレージから直接入れて、あなたがケースで買って来るビールや備蓄品の飲料などを置いておくのに便利そう」
「でもな、ベビーカーや子供の外遊び用おもちゃ、長靴、雨具、傘などを置ける土間の収納が必要ではないか?ガレージに置くってのも手だけど、散歩の度にガレージから出入りするのも面倒だし、この間取りのまま玄関収納を考えられませんか」
そうなんだよな〜と、建次は頷き、
「わかりました、十分に再検討させていただきます」
と、とっさに言ってしまった建次だが、解決方法があるのかと内心は不安ではあるが、顔に出すわけにもいかず作り笑いで答えてしまった。


洗面

5人家族のガレージハウス|洗面所

「脱衣室と洗面所を分けたいとのご希望および帰宅後、直ぐに手洗いうがいをしたいとのことでしたので、玄関横に洗面所を配置してあります。ここには室内建具が必要ないと思い、建具は入れていません」
と建次が説明する。

尚子は何かに気付いたように目を丸くし、
「あら、室内建具といえば全ての建具が引き戸になっているようですけど、間違いありませんか」と意外な一言を発した。
「ええ、その通りですけど何か」
建次は常に使い勝手や、安全性の観点から全ての建具は引き戸になるよう間取りの計画をしている。

「先に行った他の住宅会社の設計者からは、住宅の建具を全て引き戸にすることは難しいと言われていて、半ば諦めていたのです。うちは子供が3人いるでしょ、指挟みも心配だし出会い頭にドアで顔をぶつけないかしらとか、ドアがあると邪魔になることもあるし。今のマンションでも、このドア外しちゃおうかしらと思うこともあるんです」
悪戯っ子のような目をして尚子が微笑む。

「私はいつも全ての建具が引き戸になるように計画していますので、特に必要ないかと思い説明しませんでしたが、建具は引き戸に限りますね」と建次。

「とても嬉しいです。ところで洗面所にも収納、あっタオルとか歯ブラシなどをストックしておける程度で良いので収納を付けていただけないかしら」

「もちろん構いませんよ、そのために打ち合わせをしているのですから、間取りの段階では、家のゾーニングを行っているのと同じです、各部屋の位置と広さを決めているに過ぎません。各部屋の詳細はこれからご希望を伺いつつ決めたいと考えています」


収納

5人家族のガレージハウス|収納

建次は青木家の優先順位の高い希望の一つ、収納の充実を叶えるため独立した納戸やWICも考えたが、ただ床面積が増えるだけで、個室内部の通路部分が無駄な空間に思えてならなかった。そこで、通り抜ける収納として廊下に収納を付けた。

「収納を充実させたいとのご希望でしたので、階段トイレ前の廊下に収納を付け、収納力を高めてあります」
和也は感心した顔で建次の方を向き、
「通りぬけできるクローゼットですか?」といった。

さすが技術系の仕事をしている和也は察しがいいと、建次は目を丸くする。
「その通りです、奥行きは600mmほどですが、間口は2700mm、1間半ほどあります」
「2700mm、1間半ってどのくらい?」尚子が口を挟む。

「畳でいえば長手の1枚と半分になります。もし食品庫横のコート掛けを想定した収納部分も一緒にすれば、2間間口の収納になります」と建次。
「ああ、この間口900mmほどの収納は、コート掛けなんですね。尚子、ここはコート掛けのままでいいよね」
和也は尚子の顔を覗き込むように確認する。

「そうね、それならば玄関の間にある引き戸は階段前に移動し玄関から直接、洗面所に入れるようにしたら良いんじゃないかしら」

「確かにそれも考えられるね。でも食事後の歯磨きや洗顔、手洗いを考えれば建具は、この場所が良いんじゃないか」

この建具は冬季間の暖房効率を考え入れたもので、普段は開け放ち使い、来客時にでも不都合があれば閉める引き戸であり、それほど重要なアイテムではない。しかし、このご夫婦は建具1枚の位置で暮らし方や利便性が変わることに気付いているのだろうか。2人の家づくりに対する熱い思いが伝わり、少しでも良い家を造りたいと願う建次は愉悦を覚え、さらに気を引き締めた。


トイレ・階段室

5人家族のガレージハウス|階段・外部収納・トイレ

「階段下の外部収納は外から使うのですか?これでは使い勝手が悪そうだな」
和也は痛いところを突いてくる。

建次は、トイレ横に洗面所があればトイレに手洗いが不要だが、この間取りでは手洗いが必要だろうと、階段下部分に手洗いをはみ出し設置した。トイレ用の手洗い器には各メーカーからコンパクトな埋め込み式の手洗い、例えばTOTOならば「L590」や「L870」、lixilであれば[L-A74HC]などがあるが、奥行きがなく手を洗いにくく、あまり勧められないよなと、考えているところへ、

「階段とトイレを入れ替え、洗面からトイレに入れるようにしたらどうかしら」と尚子。
「居間からトイレが遠くなるけど、それでも良いかな」
と和也も口を揃える。

「それも良いのですが、そうすると2階の寝室横にトイレを配置することになります。今は良いですけれど、お子さんが成長し生活時間が変わると、トイレの音が寝室に漏れて気になるのでは?」
と建次が2階の間取り図を指しながら答える。

「そうか、間取りは1階だけではないもんな。あれ、2階のトイレも1階のトイレと同じ位置にしてある」

「トイレの位置は1、2階で同じくするのは、間取りの基本です」

階段下収納の使い勝手を気にするあまり、つい力なく答えた建次。しまった!半端な返事は相手を不安にさせてしまうと思った矢先、
「やはり、このままの配置で階段下収納は室内から使えるように考えてください」
と和也が静かにいった。


脱衣室・浴室

5人家族のガレージハウス|脱衣室・浴室

脱衣室・浴室の説明を始めた建次は、
「この間取り図には洗濯機だけを書いていますがその他、必要なものありますか?」

「脱いだ洋服や下着、バスタオルを置いておく棚は必要だよな」
「そうね、それと下流し、最近はスロップシンクっていうのかしら、ズックや泥んこになった洋服も洗濯できるシンクが欲しいわ」
「そうだね、下着はここに置くつもり?」
「確かに脱衣室に下着を収納しておくと便利かと思うけど、湿気が心配だから下着類は別の部屋の方が良いかと思っている」

2人の会話を聴きながら建次はキーボードに「TOTO スロップシンク」と打ち込み、サイトを確かめる。TOTOには家庭用として「マルチシンク」と「洗濯用流し」がある。それぞれのサイズ(WxDxH)は「マルチシンク」小形が440x400x275、大形は500x440x240の2種類がある。「洗濯用流し」(大形)は510x500x405の1種類で合計3種類のようだ。そのほか「洗濯用流しユニット」としてキャビネット付きの製品もある。

建次は若い頃、現場監督として工事現場で働いていたこともある。もちろん工事の中には住宅やマンション、アパートなどのリフォーム工事もあり、現場で洗面台や流し台の取り替え工事に立ち会ったことは幾度もあり、その度に憂鬱な気分になる。洗面台や流し台を取り外すと必ず大量のホコリやカビが発生しており最悪の場合、ゴキブリが何匹も出てくる。

キャビネットタイプは一見すると収納ができ便利そうに思えるが、仕上がった床の上にキャビネットを置くと掃除ができない場所が発生し、不潔極まりないと考える建次は決してキャビネットタイプの製品を選ばないし、その経験を客に伝え丁寧な説明も怠らない。

脱衣室の使い方に意見を交わしていた夫妻の言葉が少なくなってきた。

メーカーのウェブサイトを確認した建次は、
「住宅向けのスロップシンクはTOTOでは3種類、INAXには大形が2種類で小型は3種類ほどありますね。付け洗いするように水を貯めて使うならオーバーフローが付いている大形をお勧めします」

「うちは服やズックの泥汚れを落とすだけだから、付け置き洗いはしないと思うけれど、ほら私って結構ストレートなタイプじゃない、だから大型の方が良いかな」
「ストレート?ものはいいようだね、乱暴と言った方がいいんじゃないか?」
和也はポツリ、莞爾として笑った。
「何言ってんの、あなたも洗濯するのよ!それと浴室は造作にしていただけますか」


キッチン

5人家族のガレージハウス|キッチン・食品庫

「さて、次にキッチンですが・・・」
と言いかけた建次の言葉を遮るように、尚子が単刀直入に聞いてくる。

「キッチンカウンターの幅って2700mm程ですよね、奥行きはどれくらいになります?」
さすが自称ストレートな性格、先ずはサイズの話からか?と、感心しながら建次は答える。
「600〜650mm程を考えていますが」

「えっと、今のマンションは間口2400mmでしたっけ、昨日あなたにサイズを測っていただいたわよね」
「そう、間違いないよ、奥行きは600mm」
「5人家族で2400mmだと、ちょっと狭い感じなんだよね。間口がプラス300mmで奥行きは50mm広くって650mmか」

尚子は建次から借りた、コンベックスのメモリを見ながら考え込んでいる。
「意外にスケールで2700mmって長く感じるけど、実際の感覚としてはつかめないものね」
「事務所のキッチンセットの間口が2700mm程ですから、こちらで確かめてみますか」
「それはありがたいわ」
建次は事務所のキッチンへ案内する。

「あら、このキッチンは手造りですか?」
「そうです」
「手造りのキッチンって値が張るんでしょ」
「そんなことありませんよ、このキッチンは大工さんにお願いして、キャビネット部分は杉の無垢材を幅方向に何枚か継いだパネルを使い、天板の御影石を乗せただけです。今は引き出しも何も付けていませんが、必要となれば引き出しや扉を付けようと考えています。こんな簡単なセットであれば20万円ほどかな」

「うちでもお願いできますか。このようなセットであれば天板の大きさを自由にできるようですし」
飲み込みの早い尚子は頭の切り替えも早く、すでにオーダーメイドキッチンに決め、コンベックスで目の前にあるキッチンのサイズを測り始めた。

「それでは、間口は2700mmとして奥行きは850mmもあれば、お皿も置けるようだけど900mmにすれば居間側から簡単な食事のカウンターとしても使えるかしら。それと高さはこのキッチンと同じ850mmにしていただこうかしら」

「自由にできるのはサイズだけではありませんよ。どこのメーカーのシンク、水栓、コンロなど全てをどこのメーカーの製品でも、自由に組み合わせることができます」

尚子は目を丸くして「あら、本当にそれは楽しみです。これからいろいろなメーカーを見て決めますから、よろしくお願いしますね」と答え、

「それと、冷蔵庫はしょうがないけれど家電製品は居間から見えないところに置きたいんですけれど、なにか良い方法、考えていただけないかしら」と、やっかいな問題をさらりと言った。


和室4.5帖

5人家族のガレージハウス|和室4.5帖

建次が和室の説明に入ろうとすると、キッチンの打ち合わせ中には子供たちと言葉を交わしていた和也は間取り図を見直し、
「俺、ここは和室ではなく居間か食堂の方が良いのではないかと思っているんだけど、尚子はどう思う」
「そうね、確かに悩みどころたと思う」
「押入れの収納は必要だと思うけど・・・。和室と居間、キッチンを含めるて何帖になりますか」と建次に聞いてくる。
「えっと、23畳ですね」
「住んでいるマンションの居間だけで確か10帖にキッチンが3帖だから、居間だけで考えると今の倍ほどになるのか。結構広いね」
「そうですねネットなどを見ていると、5人家族でしたらダイニングに6帖、リビングに8帖、キッチンに5帖の合計19帖から20帖ほどあれば十分かなという意見が多いようですね」と、建次。

しばらく黙っていた尚子が「ふっ」と、ため息をつき、
「そうね洗濯物をたたむにしても、畳があると便利だと聞いているし、亜耶ちゃんはまだ2つだから、もう少しお昼寝する和室があると良いと思うの。それに、この場所なら冬には炬燵で鍋物を突くなんていうのも良いかもよ」
「なるほどね、トイレや浴室へも近いから君のお母さんが、たまに泊まりにきてもここで休んでいただいても良いか」
「あら、母が喜ぶようなこと言ってくれてありがとう」
尚子は和也の方を向き微笑んでいる。

和也は建次の方へ向き直し、
「ではこのままで、ところで建具ですが和室の建具は引き違いが2箇所ですか」
「あっすみません。図面の表記は引き違いのように描いてしまいましたが実際には両壁に引き込み、1間の開口になります」
「そうですか、それなら居間と一緒に一つの空間として使うこともできるかな。それと押入れは間口が1間半で建具は2枚ですか?良く目にするのは1間の引き違い戸と半間の開戸の組み合わせですが」

「確かに1間半の押入れで2枚の引き違い戸は、あまり見ないかもしれませんね。3枚の引き違い戸でも良いのですが3枚戸にすると意外と真ん中の建具を正しい位置にするのが面倒なので、2枚にしています。それにお布団を出し入れするにも900mmでは布団を入れる時に少し狭く、枠に手を擦った経験はありませんか」
建次は自分の経験から押入れの間口は広い方が良いと思っている。

「そうそう、あれって力を入れて勢いで入れるから、枠に手を擦ると結構に痛いんだよね」

「もう一つ伺いたいのですが、押入れの内部もキッチンと同じように自由に棚を組むことってできますか?例えば半分を、お布団入れにして残りは子供のおもちゃ入れとクローゼットとか、雑貨を入れておくなんてことできますか」

「もちろん無垢材で押入れ内部も区切るつもりですから、ご自由になります」
建次は少し得意げに答えた。


居間・サンルーム

5人家族のガレージハウス |居間・サンルーム

「居間・サンルーム部分は下野部分、2階をのせない計画をしています。2階はないので天井は斜天井として南側の壁部分で天井高さ2300mmほど、キッチン・和室側のこの部分で、およそ3000mmの高さにすることができます」
建次は手にしていた軸が青いステッドラー製のホルダーペンで間取り図の上を指しながらいった。
笑みを見せつつ聞いていた和也は、
「雑誌で、この住宅の居間はいいな〜と、思っていた住宅も斜めの天井でした。なんとなく開放感があり、のびのび暮らせそうだと感じたのです。ただ、私が見た住宅には梁ですか?木が居間の空間を水平に横切っていたのですが、その木を無くし、すっきりとシンプルな天井にできませんか」

「構造材が何本か余計に必要となりますが、ここには2階がありませんから梁を『登り梁』といって斜めに架けることで可能になります。梁は見せますか?隠しますか?隠した方がスッキリとシンプルに仕上がります」

「どちらを選んでも良いのですか」と和也は訪ねる。

「もちろん、お好みで選べます。ただし梁を隠すと天井高さが低い方で2300mm、高い方では先にお伝えした高さより300mmほど低い2700mmほどになります」
2階子供室の窓腰高は750〜900mmに抑えたい建次は、手にしていたホルダーペンで何やら横線を3本ほど描き、いくつかの数字を書き込み答えた。

続けて、
「シンプルな天井がお好みでしたら、照明器具も壁面の間接照明を基本とした照明計画も今のうちから考えておく方が良いですね。基本的に照明器具にはLEDを使いますが、高い天井の場合、電球の交換も簡単ではありませんので、ご自身でも交換できる位置に照明器具を取り付けましょう」

「それはありがたいです、是非そのような照明計画をお願いします。ところで、このサンルームは屋外ですか?屋内なのですか?」と和也がいった。

「そうなんですよ。私もどちらにしようか迷っているのですが、本日の打ち合わせで青木さんの暮らし方と、ご意見を伺い決めようかと考えています。このサンルームは洗濯の物干し場としての機能はもちろん、駐車場横に配置したのは、泥んこになったお子さんを車から下ろし、すぐに汚れ物をここで脱ぐ場所として、あるいはキャンプや釣りから帰ってきた時に道具類を洗う場所としても利用できるかと考えています。ご主人の友人が遊びに来た時にでも車を見ながらのカフェタイムにも、こんな空間があると暮らしがもっと楽しくなるのではと、考えています」
建次はサンルームの使い方をいくつか挙げる。

「確かに暮らしを考えると、ここで泥汚れを落とした方が家の中が汚れなくて良いわね」
「そうだね、尚子が良いなら僕は構わないよ、釣り道具の後片付けもここでできるしね」
和也の同意を得た尚子は、さらに目を輝かせ、
「ここの床はタイルようですが、下流しもタイルにしていただけますか。実はネットで気になるタイルシンクを見つけたの。ほら何年か前に名古屋へ行った帰り、多治見市にタイルを展示した博物館みたいなところへ行ったことあるじゃない。あそこで見たシンクが可愛くって記憶にあって・・・」
と言いながら、尚子はノートを広げ何やら探している。ノートにはメモや雑誌の切り抜きが所狭しと書き込んであるようだ。

「多治見のモザイクタイルミュージアム?でもあそこへ行ったのは5、6年前だよ。おそれいったね」
「そう!えっと、そうそう『作善堂』さんかな?ここのシンクを取り付けたいけど良いかしら」

「タイル好きの尚子が言うなら良いんじゃないか」

建次もまたタイルが好きで、なんの問題もなく、いやむしろ喜んで答える。
「それ良いですね。白い床タイルにモザイクのシンクなんて、とてもお洒落じゃないですか。それならガラス屋根にして、ほとんど屋外の雰囲気の屋内の中庭風にしましょうか」

「そうね、それで決まり。良いわよねあなた」と尚子は満面の笑みで和也の顔を覗き込む。


ガレージ

5人家族のガレージハウス |ガレージ

「ガレージは間口6m奥行きは5.5mほどで車2台分を確保し、こちらの壁一面に収納棚を計画しています」

ヒアリングシートの「新しい家への夢や希望」欄に小さな文字で「休日はガレージで過ごしたい」と書いた和也は身を乗り出して聞いてくるが、家族の手前だろうか先に、
「まだ1人チャイルドシートに座らせなければならないけど、このサイズがあれば大丈夫ですか」と家族を気遣った言葉であった。

建次もその言葉を受け、
「駐車場の1台あたりの最小幅は2.2mほどですね、街中の一般的な駐車場の標準幅は、およそ2.5mといわれています。ただ車椅子を使う場合は3.5mほどにしていますね」と答える。

「ガレージから、このパントリーに入る時、下足はどこで脱ぐのですか」
さすが主婦の尚子は良いところを突いてくる。

建次も下足をどこで脱ぐか悩んでいたのである。ここは引き戸にしたからまだ良いが、建具を入れた場所で靴を脱いだり履いたりすることは、時には転倒などの危険性が伴うことを危惧している。
「このパントリー入り口のところでと、考えています」建次の言葉は歯切れが悪い。

尚子は少し考えた様子で首を傾げ、
「あら、そうでしたら玄関収納と一緒に、この辺りを再度、検討していただけないかしら。建具を開け、すぐ靴を履くことに多少の抵抗を感じます」

建次は、もっともだよな〜と頷くしかない。
「ところで、ガレージ内に小さなテーブルと椅子を置くスペースってありますか」と和也が小さな声で聞く。

尚子は和也の話を一笑に付すように、
「なに言ってんの!ガレージ内でなくても、サンルームに置けば良いじゃない。そんなことより私、車庫に車をうまく入れられるか心配なんですけど、車の出し入れ部分の間口はどれくらいですか」と、いった。
和也は、かなわねーなーと苦笑いしている。

青木家の家づくりは妻の尚子に主導権が移りつつあるようだと思いながら、建次は立ち上がり書棚から数冊のカタログを持ち、テーブルの上に広げる。
「ガレージドアは電動の木製オーバースライダーが良いかと考えているのですが、少々お待ちください、製造可能寸法を確認しますから」と、いいながらカタログのサイズ表を確認する。

三和シャッター製の木製オーバースライダーは樹種により可能寸法が異なる。しかし開口幅が5,400mmの場合であれば、いずれの樹種を選んでも最高の開口可能高さは3,000mmまで可能であることを確認し、
「開口の有効幅は5,200mmで高さは2,100mmほどあれば大丈夫かと思いますが、キャンピングカーのように、今の車より大型にされるご予定はありますか」

和也は妻の方をチラリと見て、
「通勤にも使いたいので、キャンピングカーは考えていません。ただ、もう少し本格的なキャンプへ行く時のため、ルーフキャリアを付けるかもしれません」

「そうですか、それでしたら希望される製品が決まりましたら、メールでも結構ですので教えてください」建次は、そう依頼すると2階の間取り図を広げた。


2階 階段・トイレ

5人家族のガレージハウス |2階 階段・トイレ

1階の間取り図横に、2階の間取り図を並べ建次は切り出す。
「1階でもふれましたが、1階と2階のトイレは同じ位置に計画してます。また夜間、静かになると、トイレの音って気になると思いますので、寝室との間には階段室、子供室との間には押入れを配置して少しでもトイレの音が軽減されうように計画しています」

「そうか、2階を考えるとトイレの位置はここがベストだよね。子供部屋の出入口からも近いし、建具も引き戸を入れられる」
「そうよね、でも廊下が折れ曲がっているのは気になるけれど、一人一人に同じ条件の個室を持たせるには、この場所が必要なのね」
と、折れ曲がった廊下部分を指差しながら尚子は何か思い悩んでいるのか、図面に目を落としたまま呟く。

和也は、そんな尚子を気にしてか小さな声で、
「階段の段数は何段ほどになりますか?あまり急だと、まだ子供が小さいから危険かなと、とても気にしているんです。それにこの階段スペースは、今まで見てきた、どの間取りより狭く感じるのですが」

「確かに階段スペースは狭いかと思います。しかしこの家は先に話しましたように、1階は天井高さが低くても構わない、いやむしろ低い方が好ましい部屋の上に2階を配置してありますので階の高さ、つまり1階床と2階床の間隔は2400mmですから、蹴上は200mmとして12段で上がれます。蹴上を12段とすると踏面は11段となりますので、階段折り返しの踊り場部分を3段とすれば直階段の910mm部分で4段、踏面は約230mmとなります。住宅の階段として踏面230mm、蹴上200mmの階段は45度以下の勾配になり、昇りやすいと思いますよ」

「今、踊り場部分は3段と仰いましたか?図面は4段になっていますね?ということは、この三角の段は2段ということですか」
「これは失礼しました、その通りで90センチ角の踊り場を設けることになります」
と建次は頭をかく。

「階段の勾配も心配するほどではなさそうだし、踊り場が取れるなら、もし踏み外しても大きな怪我にならないかな」
「階段の段板は無垢材で造りますので段鼻には滑り止めの溝を掘っておきます。もちろん手摺りも取り付けます」
尚子は顔を上げ、黙って階段の説明を聞いていたが、もうすでに図面に目を落としている。


2階 子供室

5人家族のガレージハウス|2階子供室

子供に個室を与える年齢は、小学校入学時が多いという。子供室は3室、部屋の向きは違えども3部屋とも4畳半に1間幅の押入れが付く。

「由香ちゃん、自分だけの部屋が欲しい?亜弥と一緒に一部屋でも良いかしら」
「ダメだよ。お母さん、お友達はみ〜んな自分1人の部屋を持っているよ」
長女の由香は12歳の小学校6年、来年は中学生もう3年もすれば自分の部屋で受験に備え、集中できる個室が必要になるだろう。

子供部屋は子供が自立する過程の第一歩に必要ともいわれる。親の力を借りることなく自分の物は自分で管理し、自分で考え、失敗を繰り返しながら成長する空間でもある。もちろん掃除も自分でさせなければ意味がないと考える尚子は、
「わかったわ、今は智也と二人で一部屋だったから、たまにお母さんが部屋の掃除をしていたけど新しい家ができたら、掃除も自分でするのよ」
と、少し強い口調でいった。

「もちろん、自分でするよ。ありがとう」と由香が笑顔で返事をする。

「この点線は将来、二部屋に分けるということでしょうが、長女が12歳、長男が9歳ですから、すぐにでも個室を与えたいので最初から二部屋に分けて下さい」
と、尚子は顔を上げ健次に伝える。
「それから、これからは子供たちもWi-Fiを使うでしょうから、機器は建物の中心あたりに設置して下さい」
「なうほど、そうですねでは、トイレ前の収納の中に設置しましょうか」
と横に置いてある1階平面図の収納部分に赤字で健次が「Wi-Fi設置」と、メモする。

「もう一つよろしいですか?子供室の窓ですけれど最近、不慮の傷ましい事故が何軒か発生しており、他人の親であっても残念でなりません。子供室の窓は、いずれも身体が出ない構造の窓にして下さい」

「わかりました。採光は必要ですから大きさは変えず『FIX窓と片開き窓もしくは、オーニング窓』の組み合わせか『滑り出し窓』にします」家庭内事故の大半は人災だと考えている健次は真剣な面持ちで答える。

通常、1間幅の窓は流通量が多く構造が簡単で網戸が外側に付く『引き違い窓』が使用される、それは子供室の窓も例外ではなく、一般的には腰高750〜900mmの位置に窓高900〜1200mmほどの窓を付ける。部屋の大きさやレイアウトにもよるが、ここで非常に大切な安全上の問題として、窓横にベッドを置くと窓の腰高がベッド上面から400〜550mmとなり、ベッドの上で遊んだり、ちょっとふざけるなど、一瞬の気の緩みが窓から転落する悲惨な事故を発生させる。

その予防策として、当初より窓の種類を十分に検討を行い決して子供が転落しない種類の窓を選ばか、あるは転落防止用の手摺りや面格子などを取り付けなければならない。


2階 寝室・WIC

5人家族のガレージハウス |2階寝室・WIC

社会の最小単位、夫婦だけの寝室は住宅内で唯一必要なプライバシー空間といってよい。
決して親子であっても見せられない、夫婦だけの生活が営まれる空間であることを意識して設計しなくてはならない。静寂が求められる夫婦の寝室は極力、生活音が発生する部屋や道路からも距離を置く場所に配置したいところだと、建次は考えている。

生憎、この住宅は道路は西向きにあり子供部屋を夫婦の寝室のため子供部屋を西に配置するわけにもいかず、止むを得ず寝室をにしに配置した。その代わりといってはなんだが、西日の侵入を少しでも避けるため窓は小さく、室内側に障子と襖を設置しようとしている。

「寝室の広さは8帖、ウォークインクローゼットは3帖分の広さになります。ベッドはシングルとセミダブルと伺っていますので、この広さがあれば問題はないかと」当たり障りのない言葉から建次は始める。

「寝室の広さは8帖あれば大丈夫だと思います。ただ、収納が3帖分だと少し心配だな。住宅の大きさと建築費を考えると、3帖でも別に収納をとってくれたのはありがたいのですが、もう少し収納力を高められないかな」という和也に続き、
「そうね季節の服や寝具類、そのほか鞄や書籍類も結構あるものね」と尚子が続き、さらに、
「それと引き戸を開けて直ぐに寝室に入り、ベッドが見えるのも、なんだか落ち着かないかなって思うの。ほら、どこだったか旅行に行った時、普通ホテルって水回り前の通路があって寝室に向かうじゃない、でもそのホテル、ドアを開けると直接ベッドが目の前にあって、なんだか落ち着かなかった記憶が今でも鮮明に残っているの」と思い出し呟く。

「そうだったよね、僕も思い出した。確か、君は何度も『落ち着かない部屋ね』といってたよな」

青木夫妻の真の意味を察した建次は同意するように「そうですね〜」と曖昧な返事をして考えこむ。

いつもなら夫婦の寝室には、さりげなく前室を設ける建次だが、この住宅に限って、そのような余裕もなく各室をレイアウトした、まさに詰め込んだといっても良い。
2階のトイレを無くして前室に当てても良いのだが、5人家族の家にトイレが1か所しかなければ暮らしの中で不都合が生じることは目に見えている。

解決する方法は二つ、一つは脱衣室に衛生陶器を設置して2階のトイレをなくするか、このままで寝室入り口にもう一つ建具を付けるかだろうと、建次は頭の中で間取りを組み立てていく。

収納量を高め寝室のプライバシーも高めるには、やはりこのままのレイアウトで階段横に前室をとるのがベストだろう。ただ階段手摺部分に建具を入れるという厄介な設計が必要になるが止むを得ないと結論付けると、
「わかりました。この部分に小さな書斎を造りましょう」と階段横を指差しながら子供たちには真の目的が分からないように返事をした。

「クローゼットの収納力も高めて下さいね」と尚子は笑顔で念押しする。


セカンドプラン

2階

5人家族のガレージハウス |セカンドプラン2階

1階

5人家族のガレージハウス|セカンドプラン1階

5人家族のガレージハウス No2

5人家族のガレージハウス No2