住宅用建材に含まれる化学物質の基礎
もくじ
化学物質の種類と分類
規制対象化学物質とその指針値
化学物質の毒性と主な発生源
主な住宅用建材に使用される化学物質
住宅建材に含まれる化学物質を知る方法
住宅建材の有害性を調べる
化学物質の種類
沸点範囲による分類
■ 高(超)揮発性有機化合物
表記 |
VVOC(Very Volatile Organic Compounds) |
沸点 |
−/0℃〜50/100℃ |
化学物質 |
プロパン・ブタン・塩化メチル・ホルムアルデヒドなど |
含有建材 |
合板・繊維板・壁紙・ロックウール・ロックウール 発泡フェノール樹脂など |
他の用途 |
合成樹脂原料・接着剤・塗料・殺菌剤・防カビ剤 防汚剤・農薬・防腐剤など |
■ 揮発性有機化合物
表記 |
VOC(Volatile Organic Compounds) |
沸点 |
50/100℃〜240/260℃ |
化学物質 |
トルエン・キシレン・スチレン・エチルベンゼンなど |
含有建材 |
発泡スチレン樹脂(断熱材・畳床)原料・保温材・インキ・ワックスなど |
他の用途 |
溶剤・洗浄剤・合成中間体・合成樹脂原料・接着剤・塗料など |
■ 準揮発性有機化合物
表記 |
SVOC(Semi Volatile Organic Compounds) |
沸点 |
240/260℃〜380/400℃ |
化学物質 |
DDT・クロルデン・フタル酸化合物・ポリ塩化ビフェニルなど |
含有建材 |
壁紙・塩ビシート・接着剤・塗料・インキなど |
他の用途 |
殺虫剤・可塑剤・難燃剤・洗浄剤・防虫剤・溶剤など |
■ POM:粒子状有機化合物
表記 |
Particulate Organic Matter |
沸点 |
380℃〜 |
化学物質 |
ホウ酸 |
含有建材 |
シロアリ駆除剤、殺虫剤、防腐剤 |
他の用途 |
殺虫剤・防虫剤・消毒剤・防腐剤・洗浄剤 |
CAS番号
国内の化学物質の名称には、よく似たものも多く紛らわしいですが、化学物質にはアメリカ化学会(1)の下部組織であるCAS(2)が新しく生成された化学物質の登録業務を行っており、この化学物質の登録番号がCAS番号呼ばれ、化学物質の検索や特定に用いられる。
(*1)American Chemical Society・ACS (*2)Chemical Abstracts Service
化学物質の種類と分類
規制対象化学物質とその指針値
化学物質の毒性と主な発生源
主な住宅用建材に使用される化学物質
住宅建材に含まれる化学物質を知る方法
住宅建材の有害性を調べる
規制対象化学物質とその指針値
建築基準法
ホルムアルデヒド | 放散量規制:表示F☆☆☆☆ |
クロルピリフォス | 使用禁止 |
法規制の現状と将来の不安
建築基準法で制限されるホルムアルデヒドの放散量は、あくまでも建材から放散される量であり、あくまでも含有量ではありません。建材自体にはホルムアルデヒドが含まれており、放散させないための吸着剤を含有させている製品が多くあります。しかし、その吸着剤の有効期限及び、吸着能力は不明で、建材の放出量試験時に基準を満たした製品であれば、市中で販売されますし、仕様に制限はありません。もし将来、吸着剤の能力がなくなれば、建材からホルムアルデヒドが放散する心配は否定できません。
化学物質の室内濃度指針値:厚生労働省
揮発性有機化合物 | 室内濃度指針値* | 設定・改訂日 |
ホルムアルデヒド | 100μg/m3(0.08ppm) | 1997.6.13 |
アセトアルデヒド | 48μg/m3(0.03ppm) | 2002.1.22 |
トルエン | 260μg/m3(0.07ppm) | 2000.6.26 |
キシレン | 200μg/m3(0.05ppm) | 2019.1.17 |
エチルベンゼン | 3800μg/m3(0.88ppm) | 2000.12.15 |
スチレン | 220μg/m3(0.05ppm) | 2000.12.15 |
パラジクロロベンゼン | 240μg/m3(0.04ppm) | 2000.6.26 |
テトラデカン | 330μg/m3(0.04ppm) | 2001.7.5 |
クロルピリホス 小児の場合 | 1μg/m3(0.07ppb) 0.1μg/m3(0.007ppb) | 2000.12.15 |
フェノブカルブ | 33μg/m3(3.8ppb) | 2002.1.22 |
ダイアジノン | 0.29μg/m3(0.02ppb) | 2001.7.5 |
フタル酸ジ-n-ブチル | 17μg/m3(1.5ppb) | 2019.1.17 |
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル | 100μg/m3(6.3ppb) | 2019.1.17 |
室内空気質のTVOC暫定目標値 | 400μg/m3 |
平成30年第22回シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会提出新規提案物質とH29年6月~7月のパブリックコメントで示した指針値案
2-エチル-1-ヘキサノール | 130 μg/m3 |
2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート | 240 μg/m3 |
2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート | 100 μg/m3 |
平成30年第22回検討会で上記の新規3物質については、代替可能物質の選定が困難であることや室内空気中濃度の適切な指針値には、さらに広範な科学的知見及び技術的観点から改めて検討する必要があると、今回の検討会での指定は見送られている。
化学物質の種類と分類
規制対象化学物質とその指針値
化学物質の毒性と主な発生源
主な住宅用建材に使用される化学物質
住宅建材に含まれる化学物質を知る方法
住宅建材の有害性を調べる
指針値指定化学物質の毒性指標と主な発生源
□ ホルムアルデヒド
毒性指標 | ヒト吸入暴露における鼻咽頭粘膜への刺激 |
主発生源 | 接着剤・防腐剤・塗料・合成樹脂原料・グラスウールなど |
□ アセトアルデヒド
毒性指標 | ラットの経気道暴露における鼻腔嗅覚上皮への影響 |
主発生源 | 塗料、接着剤の溶剤・防カビ剤・防腐剤・可塑剤・合成樹脂 |
□ トルエン
毒性指標 | ヒト吸入暴露における神経行動機能及び生殖発生への影響 |
主発生源 | 接着剤・塗料・インキ・ワックス・防水剤の溶剤など |
□ キシレン
毒性指標 | 妊娠ラット吸入暴露における出生児の中枢神経系発達への影響 |
主発生源 | 接着剤・塗料・インク・ワックス・防水剤の溶剤など |
□ エチルベンゼン
毒性指標 | マウス及びラット吸入暴露における肝臓及び腎臓への影響 |
主発生源 | 接着剤・塗料・インク・ワックス・防水剤の溶剤など |
□ スチレン
毒性指標 | ラット吸入暴露における脳や肝臓への影響 |
主発生源 | 発泡スチレン樹脂の合成原料、塗料、ワックスの溶剤、合成塗料の原料 |
□ パラジクロロベンゼン
毒性指標 | ビーグル犬経口暴露における肝臓及び腎臓等への影響 |
主発生源 | 衣類の防虫剤・芳香剤・殺虫剤・農薬など |
□ テトラデカン
毒性指標 | C8-C16混合物のラット経口暴露における肝臓への影響 |
主発生源 | 塗料・インキ・ワックスの溶剤 |
□ フェノブカルブ
毒性指標 | ラットの経口暴露におけるコリンエステラーゼ活性などへの影響 |
主発生源 | シロアリ駆除剤、害虫駆除用農薬 |
□ ダイアジノン
毒性指標 | ラット吸入暴露における血漿及び赤血球コリンエステラーゼ活性への影響 |
主発生源 | シロアリ防除剤・殺虫剤・防虫剤 |
□ フタル酸ジ-n-ブチル
毒性指標 | 母ラット経口暴露における新生児の生殖器の構造異常等の影響 |
主発生源 | 塩ビ系樹脂の可塑剤、接着剤・塗料・インキの可塑剤 |
□ フタル酸ジ-2-エチルヘキシル
毒性指標 | ラット経口暴露における精巣への病理組織学的影響 |
主発生源 | 塩ビ系樹脂の可塑剤、接着剤・塗料・インキの可塑剤 |
化学物質の種類と分類
規制対象化学物質とその指針値
化学物質の毒性と主な発生源
主な住宅用建材に使用される化学物質
住宅建材に含まれる化学物質を知る方法
住宅建材の有害性を調べる
主な住宅用建材に使用される化学物質
□ ペンキの溶剤 |
トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、ノナン、デカン |
□ 水性ニスの溶剤 |
トルエン、キシレン、酢酸ブチル、n-ブタノール |
□ ラッカーの溶剤 |
フタル酸エステル系(DBP、DOP)、リン酸トリクレシル(TCP) |
□ ビニルクロスの可塑剤 |
フタル酸エステル系(DBP、DOP)、リン酸トリクレシル(TCP) |
□ 壁紙類の難燃加工剤 |
リン酸トリエステル系(TBP、TCEP) |
□ 壁紙類の接着剤溶剤 |
酢酸ブチル、n-ブタノール、トルエン、キシレン |
□ 木工用接着剤溶剤 |
酢酸メチル、酢酸ビニル、酢酸エチル |
□ 床ワックス |
トリメチルベンゼン、ブチルベンゼン、デカン、エチルトルエン、キシレンなど |
□ 畳の防虫加工 |
ナフタリン、フェニチオン、フェニトロチオン(スミチオン)、ダイアジノン |
□ 木材・土壌の防蟻剤 |
クロルピリホス、S-421、ホキシムほか多数 |
□ シロアリ防除剤、殺虫剤、木材防腐剤として使用される農薬の種類 |
フェニトロチオン、フェンチオン、ピリダフェンチオン、ジクロルボス テトラクロルビンホス、フェノブカルブ、ペルメトニン、ビフェントリン イミダクロプリド、ナフタリン、など |
住宅建材に含まれる化学物質を知る方法
現在、住宅に使用される建築建材には、純粋に自然素材の製品もありますが、多くの建材には化学物質が含有しています。中には「自然素材含有」と表記され自然素材が、ほんの数%しか含まない紛らわしい製品や「自然素材」と表示されていても内容成分を調べると、化学物質が含有している製品を目にすることもあります。建築建材に含まれる成分を調べるには、製品のSDS(*1)もしくは、成分表を確認します。本来SDSは、化学物質排出把握管理促進法(化管法) により指定されている化学物質(*2)を、有害化学物質の製造工程のみならず、使用・廃棄など移動管理を行うPRTR制度(*3)と、化学物質の人に対する毒性や生態毒性、地球環境影響などの有害性を表記するSDS制度にて化学物質を含有している製品に義務付けられます。しかしSDSには指定以外の化学物質や、規定数以下の化学物質(*4)あるいは、例外的にSDSを提供しなくても良い製品(*5)もあります。製品の成分が自然素材だけであれば、SDSは必要ありません、しかし自然素材100%の製品でもその内容成分を公表するためにSDSを発行している製品もあります。もし、皆さんが製品の安全性を確認しようとした場合、製造メーカーのサイトでSDSを公表している製品は案外と安全な製品が多く、ネット上では非公開にしていたり、何かしらの手続きをしなければ公表しない製品には、有害な化学物質が含まれる場合が多いように感じます。あくまでも私の感想ですが・・・。
*1)SDS(Safety Data Sheet)|安全データシート
SDSとは化学製品の安全な取り扱いのための情報。使用されている建材や素材に、どんな化学物質がどれだけ含まれているかが、記載されています。
これは、化学物質を取り扱うメーカー製造社は、2001年4月1日施行され たPRTR法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)により、指定された合計562物質の化学物質を使用した製品については「MSDS」の提出が義務化されています。
*2)化管法にて指定されている化学物質
□ 第1種指定化学物質(462物質)
□ 第2種指定化学物質(100物質)
※労働安全衛生法でのラベル表示義務とSDS交付義務の対象物質は673物質
※ 化管法:化学物質排出把握管理促進法
対象の指定化学物質は下記のホームページで見ることができます。
対象化学物質:経済産業省(平成30年時点)
http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/law/msds/2.html
*3)PRTR制度とは
PRTR制度とは、人の健康や生態系に有害なおそれのある化学物質が、事業所から環境(大気、水、土壌)へ排出される量及び廃棄物に含まれ事業所外へ移動する量を、事業者が自ら把握し国に届け出をし、国は届出データや推計に基づき、排出量・移動量を集計・公表する制度です。平成13年4月から実地されています。※経済産業省HP
*4)SDSに記載不要な含有率
指定化学物質の含有率が、第一種指定化学物質及び第二種指定化学物質ともに1質量%未満、特定第一種指定化学物質の場合は0.1質量%未満であれば記載の必要はない。
*5)例外的にSDSを提供しなくてもよい製品
□ 固形物(紛状や粒状のものを除く):金属板や排水管など
□ 密封された状態で使用するもの:乾電池など
□ 一般消費者用の製品:家庭用洗剤、殺虫剤など
□ 再生資源:金属くず、空き缶など
化学物質の種類と分類
規制対象化学物質とその指針値
化学物質の毒性と主な発生源
主な住宅用建材に使用される化学物質
住宅建材に含まれる化学物質を知る方法
住宅建材の有害性を調べる
住宅建材の有害性を調べる方法
SDSには、PRTR制度にて指定される有害な化学物質とその含有率、及び危険性が記載されています。住宅で使う建材も、有害化学物質が含まれていれば、SDSが必要になり、このSDSを調べることで、住宅に使用する建材に含まれる化学物質の有害性と、その建材の安全性を確認し、新築・増改築する室内環境の安全性をある程度予測して計画することができます。ただし、SDS制度では、有害化学物質でも含有量が少ない成分はSDSに記載しなくてもよく、より詳しく調べるには、メーカーへの問い合わせが必要になることもあります。SDSだけで、総ての有害情報は把握できない建材や素材も多く、成分表の提供や、メーカーへの問い合わせや使用経験者の感想も参考になります。また、建材・資材の独特の臭いはSDSに記載できないため、使用予定の建材に少しでも不安が残るのであれば、サンプルなど現物の確認を行うことをお忘れなく。
毒性の強さを知るLD50
SDSにはLD50値という数値が記載されています。LD50(50% Lethal Dose)値とは、日本語では「半数致死量」と表現され、経口あるいは経皮急性毒性の動物実験で、半数が死んだときの致死量を意味し、この数値によりその物質の毒性がわかります。LD50値は化学物質だけではなく食塩や細菌、天然毒にもLD50値があります。LD50値は、数値が大きいほど害性が少なく、数値が小さいほど毒性が高くなります。
色々な毒の毒性
毒の種類 | LD50mg/kg | 毒の由来 |
ボツリヌス菌毒素D | 0.000000032 | 細菌毒 |
ボツリヌス菌毒素A | 0.00000011 | 細菌毒 |
破傷風菌 | 0.00000017 | 細菌毒 |
ダイオキシン | 0.0006 | |
テトロドドキシン | 0.001 | フグ毒 |
青酸ガス(HCN) | 3.0 | |
青酸カリ(KCN) | 10.0 | |
食塩(塩化ナトリウム) | 3,000~3,500 |
LD50の単位はmg/kgです。これを食塩に当てはめると、体重60Kgの人が、180g~210gを一度に摂取すると半数の方が、命に危険があることになります。少量であれば、体に必須の栄養素ですが、大量に摂取すると毒になります。
LC50
LD50と同じく、急性毒性の指標にはLC50”Lethal Concentration”単位は「mg/Kg/時間」または「ppm/Kg/時間」があります。これは水生動物やガス・粉塵などの化学物質を吸入による投与の場合の指標で、吸引量にも個体差が生じるため、時間の表示も必須です。
その他の指標
IARC(国際がん研究機関)発がん性リスク分類
□ GROUP 1 : 人に対して発がん性がある。
□ GROUP 2A : 人に対しておそらく発がん性がある。
□ GROUP 2B : 人に対し発がん性の可能性がある。
□ GROUP 3 : 人に対する発がん性の分類ができない。
□ GROUP 4 : 人に対して発がん性がおそらくない。
化学物質の種類と分類
規制対象化学物質とその指針値
化学物質の毒性と主な発生源
主な住宅用建材に使用される化学物質
住宅建材に含まれる化学物質を知る方法
住宅建材の有害性を調べる