現場の物語 1 「木町三番町の家」

基本計画から始まる「プランニング・設計・見積・工事」までの物語

「いい家をつくりたい」それは住まい手の願いであるとともに、国内外を問わず、心を込めて誠実で熱心に活躍する多くの建築家の願いでもある。

ここに書き綴る物語は、全国でも稀な空襲を受けていない小さな街で活躍する家づくりに熱心な建築家が誠実に・・・ときには独断と偏見・固定観念なども交えつつ施主の希望以上に素敵な家を実現しようと日々もがき苦しみつつ家づくりに励む、実話に基づいた物語だ。

ただ、ほんの少しの誇張、脚色を加えているので虚構の世界と捉えていただくと後々、作者近辺に波風が立たず良いのだ。

小説とは異なり感動に打ち震えるとか、感涙が止まらないなどという物語ではないが、この中での出来事のひとつでも心に留まり、「いい家づくり」の手助けになること願う。

ただし、プライバシーの関係もあるので登場する個人名、団体名及び地名等は創作名を使用することを、ご了承いただきたい。

「木町三番丁の家」プロジェクト

設計編

現実、建築家あるいは設計士、建築デザイナーとして自分の作品だけで仕事を依頼され、独立して生業とできる設計士はごく稀だ。この県でも5人はいないだろう、多くの設計士は設計事務所勤務あるいは建築会社から依頼される仕事をこなしている。
主人公、森島建は60歳を過ぎ、ある程度の時間余裕もある設計士で施主の知人。当初、森島は高みの見物を決めていたが計画途中で、この昭和36年に新築された住宅の耐震工事も伴う改装工事を設計することとなった。

施工編

改修工事は施主夫婦の友人で工事も行う設計事務所「二階堂住宅設計」の二階堂晋に依頼する予定で、口約束だけでは申し訳ないと30万円の手付金も渡していた。しかし今回の住宅は築60年を過ぎ当然、耐震補強が必要だ。しかし二階堂が提出したプランニングでは耐震補強というより耐力を低下させるような、全く構造を考えていない計画しか提案されず、その力量に疑問符が付き、計画途中から相談を受けていた森島が、とにかく設計を行い工事は設計後、数社に見積依頼を行うこととなった。