日本の茶室

特別な「おもてなし空間」

茶室は「茶会」にて客をもてなす「数寄・あそびの場」として「おもてなしの心」を空間にて表現・創造することだと言ってもよい。
建築から見る茶室には客をもてなす様々な工夫や精神性を感じ、どこか「数寄の心・遊び心」が見てとれます。
それは茶室空間が語る美への意識、ただ身の回りにある素材を使い時の経過と共に現れる秘めた艶、機能性を備えた小さな空間は人々が暮らす様々な建築にも大きな「導べ(しるべ)」となることでしょう。

茶室の“こしらえ”

茶室建築の素材

茶室の主な建築素材は身の回りにある物を巧みに使いこなし使用することだ。

古の茶室は近場で採れる「石」「土」「草」「木」「水」など質素な自然素材、あるいは使い古された品を基本として、所々に珍しき素材や職人の技が冴える逸品で数寄心をくすぐりつつも緊張感のある空間を豊かに演出することで、心より客をもてなす空間を創造した。

現代で身の回りの素材といえば金属やガラス、あるいはプラスチックなども含まれるのかもしれないが、伝統的な茶人には、これらの素材を使用するには大きな抵抗感があるだろう、しかし建築的には否定しない者も多いと考える。

【 畳 】

畳の大きさは三種類

一畳の畳を丸畳、その半分の寸法で正方形の半畳、丸畳と半畳の中間サイズを大目畳と呼びます。大目畳は丸畳の四分の一を切り取り、大き目の方を使うので大目の名が付いたとのこと。茶室では、この丸畳、大目畳、半畳を使い茶室の広さも、この三種類の畳で表します。

畳は茶室の基準寸法

茶室では京畳の六尺三寸×三尺一寸五分(1.910×955㎜)を基準寸法として平面を決定する、畳割りの技法が使われます、そのため茶室に敷く畳寸法は京畳で統一しなければなりません。畳は席内で仕切りの役割を果たし、茶道では畳縁の内法目数64目を基準として茶道具や茶碗を置く位置を決定する重要な数でもある。

畳の名称

最古の茶室と考えられている「同仁斎(どうじんさい)」は銀閣寺(慈照寺)東求堂(とうぐうどう)の一隅に設けられた四畳半の一室で、茶室の基本形といっても良い。
四畳と半畳の畳は、その機能により亭主が手前に使う「亭主畳」、出入口から亭主畳に通う「踏込畳」、炉が切られる「炉畳」、床前の「貴人畳」、客が座る「客畳」と呼び「客畳」には原則的に丸畳が使われる。四畳半以上の「広間(ひろま)」では「貴人畳」と「客畳」を増やし、四畳半以下の「小間(こま)」では一枚の畳で複数の機能を兼ねる。

※「亭主畳」は「点前畳」「道具畳」、「貴人畳」は「床前畳」、「炉畳」は「鍵畳」とも呼ばれる。「貴人畳」は特に身分の高い人が座る畳で通常、座ることを遠慮します。

【 出入口 Entrance  】

茶室の出入口は客専用の躙口(にじりぐち)と貴人口(きじんぐち)、亭主が専用に出入りする茶道口(さどうぐち)と給仕口(きゅうじぐち)に大別される。

貴人口・kijinguchi

間口は大目畳の幅(1,432mm)内法高五尺五寸(1,667mm)以下を基本とする貴人口には基本として腰付障子戸を建てます。腰板には木の繊維に沿って剥いだ野根板(のねいた)が使用される。低い内法寸法は空間との意匠的調和を求めたものであろうが当時、平均身長155Cmの日本人としても頭髪に髷(まげ)を結っておれば、頭を下げ入室しただろと想像される。

躙口・nijirigchi

千利休が舟座敷を見て創意したとされる躙口は概ね高さ70Cm前後、幅60cm程の片引き板戸が使用される。躙口の引戸は雨戸同様、外側に建付けるため柱の外側に「挟み鴨居」と床面に「挟み敷居」を打ち付け、畳に接する無目敷居の間には雨水が溜まらないよう隙間を空ける。
くぐり抜けるように腰を折り茶室に入り込む動作は、非日常空間への入口を演出するためには、これ以上の仕掛けはないだろう。

茶道口・sadouguchi

茶道口は茶室には必須の出入り口。茶道口は亭主が点前のため客座を通らず亭主座と水屋を行き来できる位置に設け、茶道具を持ち運べる高さが必要で、四畳半の茶室の場合、内法高さは五尺一寸が基本で和紙を両面に張る「太鼓張り」の襖が用いられる。襖に使用される和紙は美濃紙、湊神、反古紙が主流で組子の一マス分の和紙を切り抜き、引手として使う。
茶道口の形状は席側から見附寸法一寸の方立と鴨居を見せ、鴨居を伸ばす「角柄(つのがら)」に組む「方立口」と壁を塗り回す「火燈口」の二通りある。

茶室「如庵」の茶道口は実際には「方立口」に太鼓襖が入る。同じ茶室で、いかに雰囲気が変わるかを少しでも感じ取っていただきたく「火燈口」に変更して描いてみた。

給仕口(kyuujiguchi)

茶道口を給仕口として使う場合も多く、必ずしも必要とされない。給仕口は、お菓子や懐石のお膳を席へ運ぶための出入口であり、床に座って出入りする所作を慣例とするため、給仕口の内法高さは四尺以下を基準とする。
客向けの給仕口は幾分、遊び心に富み、やわらかな形状を好み、その形状は円に近い丸やかな曲線や、袴腰を基本とした曲線を用い開口部は壁を塗り回す場合が多く、茶の流儀や茶人の好みにより様々で水無瀬神宮茶室「燈心亭」では銘木の曲木を枠として使っている。

【 窓  Window 】

初期には建物内の一部屋を茶室として供用しており、縁に面した出入口以外に窓がない茶室が多く、独立した東屋形式の草庵茶室が造営されると自由に窓を設けることが可能となった。窓は作者が理想とする明るさのみならず茶室の雰囲気や機能性、設計趣旨など多くを表現する非常に需要な要素であることは現代でも変わらない。茶室の窓は基本的に連子、下地窓と室内の引違い障子、片引き障子、掛障子との組合せで構成される。

小間茶室の窓は下地窓、連子窓、突上げ窓が基本であり、設置する位置により床間廻りでは墨跡窓や花明窓、点前座の近くに設置する窓は風呂先窓、色紙窓と呼ばれる。連子窓は外側に、やや広めの竹連子(格子)が打ち付けられた窓だが、細い丸竹を隙間なく打ち付けた窓は有楽窓(うらくまど)と呼ぶ。突上げ窓は屋根を切り抜き付けた窓で、今でいうところの天窓・トップライトだ。

墨跡窓 Bokuseki Mado

床間の掛物を照らす役割で多くは下地窓と掛障子を用いるが流派による好みで設置される窓。千利休は好まず織部は同様の窓を花明窓として扱った。目安として床畳から約二尺五分、相手柱より四寸七分の位置から下地窓を開け、おおよそ幅一尺四寸、縦一尺七寸の掛障子を掛ける。

突上げ窓 Tukiage Mado

掛込み天井を施した化粧斜天井部分にあけた天窓。天窓は垂直窓の3倍ほどの採光が期待できるため突上げ窓を開放すれば茶室の雰囲気を一瞬で変化させる演出が可能だ。開閉は障子を天井裏に摺上げ、覆戸(雨戸)を「尺八竹」と呼ぶ竹棒で突上げ開く。化粧天井縦の垂木2間と竹小舞4間の大きさを標準とする。突上げ窓の設置は、あくまでも作者の意匠であり必ず設けることはない。

連子窓 Renji Mado

連子窓の構成は竹連子と引違い障子もしくは片引込み障子。連子連子には径18〜21㎜の竹を90㎜程の間隔で上下の敷鴨居に打ち付ける、上下間には成21㎜、厚み7.5㎜の「あふり貫」と呼ぶ横桟を左右の枠に差込み渡すが基本的には、この貫に竹を打ち付けない。連子間隔が広い連子窓は茶室における基本の窓で躙口と対で設置されることが多い。

下地窓 Sitaji Mado

土壁を塗らず壁下地の小舞を表にした下地窓は、その形状や大きさ位置は自由で実用性や意匠性を自在に表現できる窓である。下地窓の小舞は本来の壁用下地ではなく1〜4本を吹寄せ、おおよそ30㎜四方間隔で意匠化される。また素材も現代の土壁下地の小舞には割竹と麻縄を基本とするが、茶室の下地窓には皮付きのヨシと藤蔓を使う。

風呂先窓 Furosaki Mado

点前座の風炉向こうに設ける下地窓と障子を組み合わせた窓。炭を焚く炉の近くに設けることから採光と共に給気口の役割も果たすと考えられるので片引き障子が基本であろうが、千利休は上下の敷鴨居が目障りだとして掛障子を好んだと伝わる。掛障子であっても障子下端と壁の間に隙間を開ければ十分、給気は可能であり、その機能性は変わらない。寸法の基本は、畳から敷居天まで六寸、敷鴨居間が一尺六寸にて右側に小壁を五寸ほど残し、竹の方立てを入れ戸当たりとする。

色紙窓 Shikishi Mado

点前座の横外壁面の上には連子窓、下には下地窓を色紙散らしのように配置を基本とする意匠的意味合いが強い対の窓で、流派により設置の有無は分かれる。また好みにより上下とも下地窓、あるいは連子窓とする茶室もある。

有楽窓 Uraku Mado

外側に細い丸竹を詰めて打付けた窓。織田有楽が建てた「如庵」に見られることからこの名が付く。形式的には連子窓の一種で竹連子を詰め、隙間なく打付けた「盲連子」(めくられんじ)としたもの。個人的には戦国時代の武家茶人が建てた茶室であることから有楽窓は採光の調節というより視線を遮る目的であったのではないかと考える。また「盲連子」も現代では気になる表現で「目隠連子」と呼びたいところでもある。

床・toko/床間・tokonoma

「床間」の意味と基本形

「床間」は茶席にて上座の位置を示し、開催される茶席の趣旨や、もてなしの心を表現する大切な役割を担う空間である。基本的な四畳半の茶室において「床間」は床柱、床框、床畳、落掛、相手柱の五要素と各種金物で構成され内法幅は四尺、奥行き二尺四寸の四尺床が原形。天井の高さは、お気に入りの掛軸の長さに合わせて決めることをおすすめする。

床間の釘

小間の茶室にて主人の感性や気配りを掛物や花、花入などの飾物に託し表現するため床間は唯一の場であり、これらの品を掛けるため床廻りには幾種類かの釘を備える。

主な釘の種類

掛物釘 “kakemonokugi”

掛軸などの掛物を掛けるための釘。竹釘を用い、皮目を上にして大平壁(床間正面の壁)中央、廻縁より一寸下が基本、上端には掛物が壁に接しないような位置に切目を付け、すべり止めとして壁貫に斜めに打つ。

花蛭釘 “hanahirukugi”

床間天井板に打つ釘。取り付け位置は前後には奥行きの中央、左右は床柱方向よりおよそ1/3の位置が基本で環先は右に向ける。

柳釘 “yanagikugi”・隅打釘 “sumiuchikugi”

正月の初釜に結柳(むすびやなぎ)を入れる青竹の筒を掛けるため床間正面の入隅柱に打つ釘。天井廻縁より9寸から一尺下で壁に対し四十五度に打つ。角柱用の折座、面取柱や丸柱用の平座および座のないものもある。

柱釘 “hashirakugi”・花釘 “hanakugi”

床柱に花入を掛けるための釘。打つ高さは床框上端と落掛下端までの四分の三くらいの高さが適当で、およそ三尺五寸から三尺七寸が基準とされる。

落掛釘 “otoshigakekugi”

落掛釘は流派により落掛けの中央正面または裏側に打ち、釣花入を掛ける折釘。形状は「柱釘」と同じだが長さは短く「華鬘釘(けまんくぎ)」ともいう。

障子掛釘 “shoujikakekugi

下地窓に掛ける掛障子や掛雨戸、簾を掛ける場所に打つ釘。柳釘に近い形状だが基本的に座は付かない。

特に床廻りの釘ではないが、茶室にて使用する折釘の一つ。

床間の変化

初期の床間は間口が一間(六尺)、奥行三尺で柱は角柱で床框は漆塗であった。壁仕上げは床間・客席とも和紙を張っていたが利休の頃から後、四畳半茶室の床間の間口は四尺に狭められ、奥行も二尺四寸程の四尺床間になる。
床柱は角柱から丸柱に、床框は角の漆塗仕上げから自然の丸太を用い、壁は床間・客席とも土壁仕上げとして客席の腰部分には和紙を張った。

六尺床から四尺床へ

四畳半茶室にて六尺床間と四尺床間の違いを感じていただけるだろうか。
六尺床では空間が間延びし四尺床の方が引き締まった印象を受けないだろうか、また九尺間口の壁面に六尺床では床間が主役になり人物が脇役に追いやられる感じを受けないだろうか、しかし四尺床間であれば茶室の空間と融合し人物が主役になりうる雰囲気をもたらしてくれる。
そして建築的には、この四尺という寸法が絶妙で、木造であればグリッド上で設計する現代の私達は四畳半の一辺、九尺の半分で四尺五寸とするであろう、しかし利休はあえて間口を四尺、奥行きを二尺四寸ほどにすることで、柱が中央に建つ事で生まれる緊張感を和げ、床間を壁の一部として溶け込まそうとしたのではないだろうか。

参考
国立国会図書館デジタルコレクション
「茶室の見学(茶道文庫)」河原書店編集部編 河原書店 昭和38年
「日本建築 茶室編第9」 田辺秦編 彰国社 昭和18年
「数寄屋聚成1」北尾春道編 洪洋社 昭和10年

「数寄屋建築集成 茶室と露地」中村昌生監修 小学館
「古典に学ぶ茶室の設計」 中村昌生が語る建築講座 建築知識スーパームック
「“しくみ”で解く茶室」 竹内享 風土社