32.5坪「子育て世代の平家」

木の家づくり物語[第2話]
広々と暮らす32.5坪、子育て世代の平家

プロローグ

平家の家は高くなりますよと言われた。
「なぜです」との問いに。
「平家の家は総二階建ての家に比べ、屋根と基礎の面積が倍になる分コスト高になります」
「なるほど」
「コストアップは、おおよその金額でおいくらくらい?」と問うと。
国内の平均的な床面積で総二階建て35坪ほどの住宅で、基礎工事がおおよそ180万円。屋根工事が75万円ほどとすると、その倍の金額としてコストアップは合計で255万円ほどになるという。

今回、住宅本体工事の予算額は3,000万円、間取り計画をする場合の概算予算では、おおよその坪単価は85万円と聞いているので、延べ床面積は約35坪を予定していた、ここで250万円の追加金額は痛い。

やはり憧れであった平家の家は、諦めるしかないかと返答に躊躇していると、
「255万円アップでしたら、255万円を坪85万円で除し、およそ3坪ですね」と担当者がぽそりと一言。

「そうか、平家の家を希望した場合、予定の延べ床面積35坪の計画から3坪減らして32坪で計画するということですか?」

すこし申し訳なさそうな「そうですね」と小さな声が返ってきた。
これまで数社の住宅会社と打ち合わせを行なったが、延べ床面積で予算調整を提案されたのは初めてである。

しかし、35坪の家を希望していた私には、32坪の家は狭く感じるのではないかと危惧している私に担当者は、
「大丈夫ですよ、狭く感じない家を設計しますから」と、明るく返事をよこした。

私たちの希望を簡単に伝える。

希望するLDKの広さは18帖から20帖ほど、子供がいるのでLDKの他、畳の部屋があると、お昼寝や洗濯物の片付けに便利だと思う。寝室はベッドで8帖ほど、子供は今は1人だができれば2人を望んでいる。車は2台と来客用に1台の合計3台分。予算は本体工事費で3,000万円とした。


[ ファーストプレゼン ]
[ 玄関・食品庫 ]
[ 居間・食堂・台所 ]
[  和 室  ]
[  寝 室  ]
[  子供室  ]
[洗面・浴室・トイレ]
[ セカンドプラン ]


ファーストプレゼン

32坪の予定だったプランニングは、30.5坪で仕上がってきた。

「32坪の予定では?」と聞くと
「ご希望いただいた要望を満たした上で30.5坪で収まりました」
と担当者は答える。

さらに住宅を新築するには建物本体工事だけではなく、外構工事や作庭、デッキなどその他にもかかる費用は多く、建物本体は要望が満足していれば小さな方がありがたい。
また、プランニングは面積を小さくすることは非常に難しいが、大きくすることはとても簡単であるらしい。

ハウスメーカーにもよるが、最初のプレゼンでは複数のプランニングを用意されている会社も多い。
しかし、杉無垢板であるらしいテーブルの上に出されたプランは、これ一つのようだ。

「プランはこれひとつですか?」
「伺ったご要望や暮らし方、将来の希望、敷地条件を考えた上で最もふさわしいプランを考え抜いた間取り図です」
とプロとしての責任感ある返答に安心感が生まれる。

さらに、
「このプランは自信あるプランですが、あくまでもファーストプランです。この段階で大切なのは、敷地に対する各部屋のゾーニングと部屋の大きさです。この確認を間違えると決して良い家は建ちません」
と、笑みを浮かべながらもプロとしての真剣な眼差しが返ってきた。

なるほどと納得しながら、それぞれの間取りの位置や大きさ、工夫などの説明を受ける。


玄関・食品庫

30.5坪「子育て世代の平家」玄関

玄関自体の広さは、今住んでいるマンションと同じくらいだ、玄関は風除室として靴を脱ぐ機能としては、この位の広さがあれば十分だ。
が、玄関収納はもう少しあると良いのかと思うと同時に、帰宅時には手洗いできる場所が必要だろう。

玄関から入り左側の引き戸を開けると居間へ、直進すると食品庫があり台所へとつながる動線は動きやすそうだ。

子供が成長し友達を連れてきたら、屋根があるウッドデッキから直接、居間へ駆け込んでくるんだろうなと数年先を想像してみる。


居間・食堂

30.5坪「子育て世代の平家」LDK

希望したリビングダイニングは18帖から20帖だった。

これまでに何件か相談に行ったハウスメーカーのプランでは、ただソファーとテーブルを置いた20帖ほどの四角な部屋だった。

提示されたプランはリビングとダイニングそれぞれの角が1間ほど接し、対角線上繋がり、その北側にはスタディーコーナーが設けられている。
「へー!リビングとダイニングは斜めに繋がっているんですね」
と、私の呟きに
「そうなんです。このような配置にすると部屋同士の対角線が長くなり、広く感じるんですよ」

「なるほど。それとスタディーコーナーもあるんですね」
矢継ぎ早に尋ねる、これまでに何度か住宅会社からプレゼンを受けているが、間取りを見てワクワクし、正直こんなに質問が生じるのは初めてだ。

「ご両親の教育方針にもよりますが・・・」
と、前置きがあり、子供部屋は基本的に睡眠の場として割り切り、勉強はこのスタディーコーナーが良いのではとのこと、子供が本当に部屋で1人勉学に勤しむのは受験を控える時期だけではないか?もちろん30.5坪というコンパクトな家にするため。子供部屋を小さくして、その分を居間に向けたのは言うまでもないであろう。

南西の角に設けられたリビングから台所を見ても、雑然としやすいキッチンと、生活感溢れる冷蔵庫が見えないレイアウトでリビングは落ち着いた雰囲気になるであろう事は、素人の私にも想像できる。

さらにこの台所の位置が絶妙で、台所に立ったまま和室もリビングも、スタディーコーナーまでも見渡すことができる位置だ。
「この台所の位置がいいわね」
と妻がポツリと呟く。


和室

30.5坪「子育て世代の平家」和室

「子育て世代の住宅」では和室があると重宝すると、聞き希望した和室なので、居間が狭くなるようであれば、和室は止めようと私は考えていた。

「私は3帖ほどの小上がり的な畳の間でも良いかなと考えていたけど、リビング・ダイニングが18帖ほどあるなら4.5帖の和室は嬉しい。それに建具を開けると一つの空間として使えるんでしょ」
と、妻は満足しているようだ。

「和室は便利ですよ。お子様のお昼寝にも最適ですし、洗濯物を畳むにも都合がいいと評判です」との返答に妻はさらに続け
「4帖半あればお雛様や節句の飾りも出来そうね、もしかすると簡単な茶室にも使える?」とさらに夢が膨らんでいる様子に、私は、和室を設けるのは決定だなと思いつつ会話を聞いていた。

「もちろん茶室に見立て使うこともできると思います。4帖半の茶室でしたら裏千家の「又隠」が有名ですね。その時にはお床が必要になりますから、押入れ間口の半分をお床にすると良いのですが、収納量が減りますので、およそ2尺から3尺、失礼600から900mm程拝借しましょうか?それから、お茶室としても使うのであれば平天井と斜天井を組み合わせる掛込み天井としましょう」

「それ良いですね」
と妻の顔が明るく微笑んでいる。

加えて
「お子さんが大きくなる頃には、今より国際化が進んでいるのではないでしょうか。お子さんが海外へ行く機会も多くなるでしょうし、外国の方を招くことも増えるでしょう。
海外の方と話をする時、自国の伝統文化の話をできなければ相手にもされないのではないでしょうか」と意外な一言を聴く。

まさか、間取りの打ち合わせで将来の子供達の話を聴くとは思ってもいなかった。
しかし、確かに言われてみるとその通りである。
なるほど、こんな配慮が「家づくりとは暮らしをかたちにすること」ということなのか。


寝室

30.5坪「子育て世代の平家」寝室

「おや?寝室へはウォークインクローゼットから入るんですか?」
「そうですね一つの提案としてですが、寝室は住宅の中でも最もプライバシーを確保しなければならない部屋です。将来お子さんにも聞かせたくない会話もあるでしょうし、お二人だけの時間も大切にしなければならないこともあるでしょう、ですから前室を通って入る方がいいのではないかと考えています」
と私たちから、なかなか言い出せないでいた夫婦生活にも気遣った返答があった。

寝室の広さは2間半(4,550mm)x1間半(2,730mm)の7帖半。この広さは正方形の8帖間より狭いけど使い勝手が良くベッドを2台置いても大丈夫だ。
ただしWICがあっても寝室には別途クローゼットがある方が便利だと思う。

「寝室にクローゼットがあった方がいいかな?」
と、妻に問うと
「どこか家具屋さんに見にいき。気にいった品でも買いましょうよ」
と答えが返ってくる。

そこに割って入るかのように、
「それなら窓台兼用のカウンターは止め、廊下側に建物に組み込んだ造作家具にしましょう。購入した置き家具は地震時に転倒する可能性が高く危険ですし、家具の裏に埃が溜まりダニ やカビの温床になり健康にも悪影響を及ぼす可能性もあります」と設計者から思わぬ一言だ。

「家具を造作で造ると高額になりませんか?前の住宅会社ではそのように言われましたけど」と予算面での不安がよぎる。

そんな不安を他所に、大丈夫ですよ造作家具にすれば、高額になりますが要するに奥行き60mm程の押し入れを造り、両開きの扉か引き違いの建具を入れれば、十分に機能を果たすクローゼットになります。また、押入れにすれば掃除も簡単ですと言われた。

確かにクローゼットといえば家具を置くことしか考えていなかったが、押し入れにするという手があったかと、眼から鱗の気分だ。やはり住宅設計のプロは違う!と驚かされる。
加えて内部の棚関係は無垢板で造り、後々棚板の組換えや追加も自由にできると、思ってもいなかった嬉しい一言がある。


子供室

30.5坪「子育て世代の平家」子供室

子供は二人を予定していると伝え、2室と思っていた。

提出されたプランでは一部屋の中に点線が描かれている。広さは2間半(4550mm)x2間(3640mm)の10帖、二部屋にすると5帖間となる。感覚的には一部屋4.5帖もあれば良いのかなと思っていた。まして、スタディーコーナーが別途あるので、この広さで十分だろうなと考えているところへ、
「新築時には一部屋で仕上げますが、将来二部屋にする時のご希望を聞かせていただけますか」と聞かれる。
「今から決めておかねばならないのですか?」
「そうですね、この案ではベッドや机を、お部屋におかれる場合は、細長い方が部屋は使いやすくなるので、収納で二部屋に区切るようにしてあります。必ずとは言いませんが、窓の位置に関係しますし、下地の位置なんかも先に決めておかれる方がよろしいかと思います」と説明される。

さらに、
「子供部屋は、自由にレイアウト変更できるようにしておく方が良いのではないかと考えています。例えば部屋の間仕切りも何も壁で作らなくとも、家具や建具で間仕切りを造っても良いのではないでしょうか」

本当に子供部屋が必要になるのは、長くて小学校4年生頃、遅ければ中学1年から高校3年生頃までの6〜9年間は毎日必要。その後大学進学で都市部へ行けば、その後は年に数回、返ってくるくらいだろうから長くて、あと4年間ほどかなと、我が身にも経験があるので想像はたやすい。

それに少し寂しいことではあるが、逆にいえばいつまでも、この家に子供達がいるのも考えものである。社会人になればこの子供部屋は、ほとんど不要になる。

そこへ、
「将来、お子様が自立した場合は、家具や建具で間仕切をしておけば、大きな金額を掛けなくとも一部屋に戻し、ご両親の趣味の部屋にも出来ますよ」

「簡単に改装と言っても床や壁、天井に後が残り補修してもらわなければならないのでは?」
と、さすが家計を預かる妻の言葉は細かい。
「確かに後は残ります。しかし小さな釘穴が数カ所と、仕上げには杉の無垢材を使うので日焼けによる色の違いくらいでしょうか』

なんでも釘穴は水を含ませると、ほとんど分からなくなるという。
なるほど!将来を見越した設計とはこんなところにも気を使ってくれるのかと、チョイと感心する。


洗面・浴室・トイレ

30.5坪「子育て世代の家」洗面・浴室・トイレ

実は檜風呂に憧れており、担当者と相談していた。
結論から言えば、浴槽本体を檜にすると手間が多く掛かり、子育て世代の私たちには家事の負担増は抑えたいことから悩みどころだ。

「檜のお風呂をご希望と伺っていますので、浴室は乾燥しやすい南側に配置しました」
水回りは北側に配置するとものとばかり思っていたので、とても意外だった。言われてみれば確かに南側に浴室を配置すると、乾燥しやすくカビ対策にも有効、との言葉に納得だ。
檜の浴槽にするか否かは見積書を提出するので、それを元に実施設計に入る前に決めれば良いとのこと。

「あのー言いにくいのですが」
「何なりと仰ってください」
「浴室の換気を考えて東側に小さな窓、付けられませんか」との問いに妻も頷く。
担当者は、
「あっ!そうです、そうです。シャワーの横ですが幅30センチ程の窓なら付けられますよね」

なんだかこんな些細なやり取りでも、私たちと共に良い家を作ろうと考えを巡らせていることが嬉しく感じていると思いがけない一言が付いて来る。

「一つ、ご提案なのですが・・・」
となんだか言いにくそうにしている。
「構いませんよ、なんでも言ってください」との私の返事に
「では。この壁なんですが」
と、洗面脱衣室と寝室の間の目地入り壁を指し
「本当に万が一の話で、もしかしてですが将来お身体に不調がきたし、車椅子を必要となった場合、寝室から脱衣室へと直接出入りできると便利なのではとも考えているんです」
思いもよらない一言である。

「それは将来、壁を壊して改装するということですか?」
「もしも、その必要が起こった場合、改装するという手もあります。それに備えておくには耐力壁として使えないので筋違いは入れず、構造計算で配慮しておかなければなりません」
確かに、それを忘れて改装すれば住宅の耐震性が低下することになる。

「いや改装工事となると費用もかかりますし、突発的に発生した場合一時的に寝室を使えなくなります。またそんな突発的な事柄があると時に自宅の工事だなんて難しいでしょう。
一つのアイデアですが不測の事態に備え、この壁を簡単に建具を入れる方法があるんです」

その方法は、寝室と洗面所の間の壁に新築時に開口部を作っておき、必要となった場合その壁を取り外し、建具を入れるという。

不慮の事故ばかりでなく、この住宅には末長く暮らすつもりでいるのに高齢になった時のことを全く考えていなかった。

「ご指摘ありがとうございます。家族共々健康には十分気をつけた暮らしをしているつもりですが、何十年も先を考えると真剣に向き合って考える必要がある問題です。他にも高齢時の暮らし方対策がありましたら教えていただけますか」
と、現在のことしか考えていなかったことを反省しつつお願いする。

「わかりました。では1週間後に打ち合わせいたしましょう」


セカンドプラン

32.5坪「子育て世代の平家」セカンドプラン

「玄関・玄関収納、合わせて2坪増やさせていただき、延べ床面積が32.5坪となりましたが如何ですか』

あ〜、玄関で手洗いをできるようにしてくれたんだ。と、私。
妻は、ベビーカーを置ける場所を考えてくれたと、喜んでいるようだ。

2坪増えたけれど、当初の予定では32坪。0.5坪増えたが許容範囲だろう、概算予算では坪単価80万円程、金額にすれば40万円ほどの増額だが寝室のクローゼットを買わなくても良くなったので増額は僅か。それに食品庫、玄関収納が増え、使い勝手はとても向上し十分に納得できる。

この間取り図を見ていると、この家に暮らしている家族の様子が思い浮かんでくるのが不思議だ。

妻も何やら思いを巡らせているようだ。

朝起きて子供達を起こしながら洗面所で歯磨きと洗顔をする。帰宅時にはお買い物を済ませ、手を洗い食品庫に買い物を入れ、少し時間があれば居間で虚ぎ夕食の準備をする。
「あら!和室のお床に建具?が入っているんですか?」
なるほどさすが主婦、細かなところに気がついたようである。

「そうなんです。収納を考えると押し入れを狭くしたので、食品庫の一部を掃除機などの収納にしては如何と思っているのですが、900mm幅の床で奥行きも900mmでは少し奥行き深すぎるのでバランスが悪いように思えます。そこで床の奥にケンドン式と言って、建具を上下することで取り外す建具を入れようと考えています。ただ床の奥ですから頻繁に出し入れするものの収納は出来ませんけれど」

続けて

「炉の位置は流派により異なる場合もありますので、ご確認ください」
と、抜かりのない一言。

しかし隠し金庫のような仕掛けは面白いし、逆に大切なものの収納には適しているようだ。
「プランは満足です、しかし2回目のプランで、よく私たちが希望する家の間取りを考えていただけましたね。ありがとうございます」
「いや、当初のお二人の家に対する、お考えが明確で具体的だったお陰です。お気に入っていただけましたら、私たちも嬉しい限りですよ」

「工事費は当初、仰っていました概算で建物本体価格2,855万円程になりますが、よろしいでしょうか」
もちろん、当初の予算額は3,000万円でしたから結構です」
と、金額の確認を行い実施設計および詳細見積もりの依頼をしたところで、もう一枚間取り図を取り出し
「この図面は高齢になられた場合、あるいは間取りの変更をする必要が発生した時の平面図です。このように簡単に改装できるよう新築時に施工しておきますから、参考になさってください」
と将来の図面まで用意されていた。

子育て世代の進化する家