「板ニワ」がある平家

木の家づくり物語ー第6話ー
「板ニワ」がある平家

木の家づくり物語 第6話|「板ニワ」がある平家

プロローグ

「上手く言えないのですが・・・」
健次の向かいに座る裕一が前置きをして話を始める。
永田裕一とは、メールで数回やりとりしたものの、その内容は日程の調整が主で詳しくは会って話したいと、今日が初めての顔合わせになる。

裕一は脇に座る子たちの頭を撫でながら続けた、
「ご覧の通り『子育ての家』になるのですが、子供の成長には感性的認識が重要だと聞きます。それには屋外、特に庭と室内との繋がりが大切なのではないかと考えるようになりました。そこで屋内と屋外が一緒のような場所、とでもいうか屋内のようで屋外の空間ってつくれませんか?そこでは、子供達も遊べ、私も季節が良い時には風呂上がりに麦酒でも一杯飲みたいし、もちろん洗濯物も干したいと思っています」

裕一の話が途切れるのを待ち、亜希子が引き継ぐように話し出す。
「それから、私たち共働き、それもサービス業で休みが少なく二人一緒に長期休暇もとりにくく、子供たちと一緒に旅行へ出かけたり、バーベキューに行ったりしにくいと思うんです。それに男の子二人でしょ、元気なお友達も、うちへ遊びに来てもらいたいと願っているんです。もう一つ私たちには、とても深刻な問題なのですが、この建太が蚊に刺されると、ブツブツした水ぶくれとなり虫アレルギーではないかと心配しているんです」

「そう、それで我が家を新築する時には子供たちが楽しめる家にしたいと、以前から妻と話していたんです。例えば家で気軽にバーベキューをしたり、自宅にテントを張ってみたり、できれば、これは私の好みかもしれませんが露天風呂のような雰囲気のお風呂だったりして、少々建築費が高くなっても、とにかく楽しめる家。あるいは別荘のように非日常も味わえる我が家を計画できないかと今日は相談に来ました。いえ無理なら無理と言っていただいても構いません。いかがでしょうか」
と、裕一は落ち着いた口調で話した。

暫く顎に手を当て首を傾げ考えていた健次は、
「なるほどお子さんたちと楽しめる家ですか。面白そうですね、あっ失礼、面白そうとは、やりがいがありそうだ、という意味です。お気にいるか否かは分かりませんが計画してみましょう」
というなり裕一の口元には笑みがこぼれた。
「お子さんの感性的認識を満属させるには、いわゆる「好奇心」と「自発性」「積極性」を満属させる空間をいかに創るかということですね」

「そうです」

「それには自然と近い方が良いでしょうから、お住まいの基本計画は平家にしましょう」
と健次は自信を持って告げる。

「まず私たちも平家を希望しているのですが、コストアップになると言われまして私たちの予算では無理かなと、諦めていたところです。土地は親から譲り受け建物予算は3500万円ほどを考えています」
裕一は声を曇らせる。

「それから日常と非日常を楽しめる家ですか、ONとOFFを楽しめる家ですね、そこは少々難問かもしれませんね」

「そうなんです、相対的なものを同時に求めるなんて、なんだかとても贅沢な希望だと承知はしています。しかしなんとか希望は叶えたい」
裕一と亜希子は愁色な顔色で伏し目がちになる。

建次は何やら呟きながら電卓を叩いて答える、
「平家で32〜33坪の家を計画すれば、予算に収まるんではないですか」

「えっ本当ですか?先の住宅会社では、私たちの希望を満足するには40坪弱の広さが必要と言われました」
二人の顔に朱がさし、真っ直ぐ健次を見つめてくる。

昨今は少なくなったと願うが、住宅会社の中には施主の懐具合も考えず、自社の売り上げを増やすためだけに大きな間取りを提案する住宅会社や、営業目的のため施主の希望も聞かず、まるで押し売りのように突然、間取図を持参する住宅会社もあると聞く健次は、

「住宅は広ければ良いというものではないと考えています。それに広い住宅は後々手入れや維持管理も大変です。最近ではお子さんが独り立ちした後に家が大きすぎると言って減築される方もいるとか聞きます。そんな計画性のない家を新築して無駄なお金は使わない方がいいでしょ!将来を見越した家づくりをいたしましょう」
小さくとも広々とした空間を作り出すことを得意とする建次は、無駄に広い住宅は不要だと考えている。

「それは願ったり叶ったりです。ありがとうございます。プランニングが出来るのを楽しみにしています」
二人は、それぞれ子供の手をとり事務所を後にした。


基本計画

健次は両手を後ろに回し天井を見上げ呟く。
「日常と非日常を満足させる住宅には、何かの仕掛けが必要だろう。ON・OFFの住宅かぁ」

いつもならトレイシングペパーを広げ、鉛筆でスケッチを始める健次だが、今回は何か手がかりはないかと、1冊の本をペラペラめくっている。本は藁葺屋根を点描画で描かれている黒っぽい表紙で、中央付近に「住まいの伝統技術」と印刷されている。
数頁目で手を止めた項目は「土縁」だ。
「なるほど土縁という手があるな」

土縁とは「ツチエン」「ドエン」「ロウジ」とも呼ばれ、島根県から秋田県にかけての豪雪地帯にに分布する。民家の座敷部分にあり、庭と同じ高さに敷居を入れ建物の外周に建具を立ち上げ、軒下までを囲む。建具は降雪時には雪囲いの機能を果たし閉ざされるが、他の季節では日常的に開閉され施錠できる雨戸としても機能する。土縁に施錠可能な建具を配置することにより、暑い夏には住居を開放的に使うことが可能となる。
四季が豊かな日本家屋は長い歴史の中で土縁にも見られるように、季節や使い勝手により屋外でも屋内でもない「中の間」という曖昧な空間を生み出した。

健次は頭の中で間取りを組み立て、
「そうだな、屋根のある中庭、広さは4.5〜6錠ほとかな。屋根はガラス屋根、夏の虫除け冬の防寒対策として網戸と雨戸いやガラス戸を入れれば、より使い勝手がよくなるか」と、ぼそっと言った。

今回、永田邸の建築予算は3500万円。健次はメモ用紙に万年筆で予算配分を書き出す。
建物本体工事費   1式 3,050万円
ウッドデッキ工事費 1式  120万円
テラスキッチン費用 1式 130万円
外構工事 1式 200万円
合計 1式 3,500万円

「建物本体工事を3,050万円とすると・・・坪単価95万で32坪だな」
計画延べ床面積を32坪と決めた健次は、トレーシングペーパーにシャープペンシルで敷地図から描き始めた。

敷地図を見ながら健次は全体の構想を練る。

子供たちの友達や、ご自身の友人も自宅へ招きたいと希望されていたから、玄関から入りパブリックな部分とプライベートな空間を左右に分け、居間は南向きとしてテラスを通して庭に続き、さらに土縁を意識した外部でも内部でもない空間『中の間』にもつなげる。さらに『中の間』は、バスデッキとして、あるいは物干し場としても使えるように浴室と脱衣室を配置した後、元気な子供たちは北側の部屋が良いだろうか、加えて部屋の窓から緑が見えるようしたい。


ファーストプラン

「さて、どのような間取りに仕上がったのか楽しみだな」
駐車場に車を停め、シフトレバーを「P」のに入れた裕一が声を弾ませドアを開ける。ここの駐車場に車を止めるのは2度目だ、駐車場の片隅に植えられたカモミールの黄色頭に白袴を履いた、てるてる坊主のようにかわいい花が踊っている。
亜希子は建太の手をとり、裕一は寝起きでしかめっ面の聡太を抱き玄関戸を開けた。

「ようこそ、さっどうぞどうぞ」健次が大きな無垢テーブル前に並べてある座布団を指す、テーブルの上には氷を敷いた深めの絵付け大皿に、透明のエビアングラスボトルが冷やされている。

「少々お時間をいただき、申し訳ありませんでした」
健次はプランニングに時間をかけた詫びを言い、図面を広げながら「玄関」から説明を始める。

玄関

木の家づくり物語 第6話「板ニワ」がある平家|玄関

「おや、玄関は建物横から入るのですか」
裕一は眠りかけた聡太を膝の上に抱き前屈みになり、いくらか小さな声で聞く。

「そうです。お二人のご友人や、お子さんのお友達を多くお招きしたいと伺いましたので、玄関は建物中間に配置し、駐車場脇を通り玄関から入った東側がプライベート、西側へパブリックスペースと住宅を2つのゾーンに分けた計画にしました」
裕一の質問に健次は、鉛筆の先で間取り図上に2つの円を描くように動かし小さく頷く。
「玄関から台所の間に食品庫を兼ねた収納を設けてあります」

建太を抱っこしていた亜希子が口を開き、
「収納の広さはどれくらいですか」と尋ねる。
「2帖半になります」
「2帖半?」
「あっ、すみません。外側に奥行き900mmの収納と部屋内に450mmの収納棚、この通路幅がおよそ750mm程になります」との健次の説明に、
奥行き900mmだと深すぎて使い勝手が悪いかなと考えた亜希子は、
「収納棚の奥行きは変えられますか」と確かめる。

「もちろん変えられますよ、私も奥行き900mmでは使い勝手が悪いかと思っています」
健次は亜希子の意図を察したように答える。
「まあ、よかった。では750と600mmにしていただけるかしら」

浮かない顔で何かを心配している裕一の様子に気がついた健次が尋ねる、
「何か心配なことでも」
「あ、いやこの2つのゾーンに分けたプランは気に入ったのですが・・・、玄関が道路から見えない場所にあると防犯上の心配はありませんか」

健次は設計する前には十分に敷地調査を行う。それはネットによるハザードマップの確認から始まり現地の確認、役所での法的調査など多岐に渡り、必要であれば現地調査は時間を変え数回、現地を尋ねる場合もある。
「確かに、以前は道路から玄関を見通せる方が安全だと言われます。ただし今回、設計するにあたり敷地のハザードマップと共に犯罪等発生マップの確認をいたしましたところ、永田さんの地域は犯罪発生件数が少なく、現地を訪れた印象でも、とても安全な地域のようで地域ぐるみの防犯対策を行う、非常に意識の高い方々がお住まいなのではないでしょうか」
と建次。

「そういえば、あの地域は市内でも文教地区といわれる場所です.しかし敷地のハザードマップだけでなく、犯罪マップや現地、役所まで調べていただいていただいたのですか」
と裕一は目を大きく開き健次を見つめる。

「そうです、住宅の設計は敷地を十分に知ることから始まり、敷地と対話していると、そこから建物が生まれてくるのです、なんていうと少しキザかな」
と健次は、はにかむように青年の顔をして話した。

「それとこれからはICTを活用したスマートハウスの時代になるでしょう。もちろん永田さんの住宅も防犯対策として、人感センサーや防犯カメラ、インターフォンも防犯性能の高い製品を選ぶ時期だと思い、計画に入れています」
と今度は健次か真顔で加えた。

「それなら問題ないかな」
裕一は亜希子と顔を見合わせ表情を緩ませた。


洗 面

木の家づくり物語 第6話「板ニワ」がある平家「洗面」

健次は力を込め話し始める。
「これは一つの提案なのですが・・・。前は洗面脱衣所を浴室横に一部屋設け、最近は脱衣室と洗面所を分ける間取りが増えているようです。しかし今の感染症対策を考えると洗面所は玄関や通路、ホールなどに設置する方が合理的で使い勝手が良いのではないかと考えるようになりました」

裕一と亜希子は声を揃える。
「確かに」
加えて亜希子は
「手を洗い洗顔する回数も増えています。それに子供たちにも帰宅直後には手洗いをすることを習慣付けたいと願っています」といった。

健次は続けて
「そこで、洗面所は部屋ではなく、トイレ前の通路に洗面器を二つ並べて洗面所としてみましたが、いかがでしょう」

二人とも、すぐに返事はない。
裕一は何やら遠くを見つめ亜希子は、
「朝起きて・・・子供たちが帰ってきたら・・・食事の後に・・・夜寝るときに・・・」
どうやら1日の行動をシミュレーションしているかように呟く。

「亜希子どう思う」
裕一が口を開く。

「そうね説明を聞いたときには、えっ?と思った。けれど1日の行動を考えると決して悪くはない。いや、お友達が来たときも考えると合理的で動きやすく、私たちの暮らしに合っていてとても良いと思うわ。それと手洗は日常生活の一部に溶け込んでいるから、家族の動線上にあると便利かと・・・」

「そうなんだよ、僕も気に入ったよ」
と亜希子の話の途中に割って一言いう。

裕一の一言を聞き亜希子が続ける、
「レイアウト的には気に入ったわ、でも一つ、収納量と床の仕上げが気になるの、子供が小さいから洗面台の前が水しぶきで汚れないかしら。それとタオルは個々に一枚づつ使いたいの」

亜希子の意見を聞いた健次は、
「なるほど、収納は必要量を確保します。また床の仕上げは、もう少し洗面台を前に出し洗面台下は濡れても良い材料で仕上げましょう。そしてタオル掛けは、お子様用に洗面台前とご両親のタオルは左右の壁にタオル掛けを取り付けましょう」と解決案を矢継ぎ早に提案した。


脱衣・浴室

木の家づくり物語 第6話 「板ニワ」のある平家|脱衣・浴室

「脱衣室・浴室はまだ、お子さんと一緒に入るでしょうから少々広めの1.25坪としました。また日常と非日常の家をご希望ということで、露天風呂風の浴室が良いとも考えたのですが、日常使いにも使えるように、この「板ニワ」の間には引き戸を一枚入れ、自由に出入り出来るように考えました。ただ一つ問題があり、この計画で工事を行う場合には、ユニットバスでは無理なので、造作の浴室となってしまいますがいかがでしょうか」
健次は伏し目がちに口元を緩め穏やかにいった。

「言い忘れていましたが、私も造作の・・・」
と裕一が話し始めた時、亜希子は少し声を張り、
「私は少しでも、お掃除が楽なユニットバスがいいわ」といった。

裕一は困り顔で「おいおい亜希子、君も日曜と非日常を体験できる家には賛成だったじゃない」
「それは賛成。でもお風呂掃除って結構大変なのは、あなたもよくご存知でしょ」

「それは確かに、今のお風呂には窓がないからカビも生えやすいし、毎日掃除していないとなんだか気持ち悪い」

「でしょ、ユニットバスでも掃除しにくいんだから、造作のお風呂にしたら、その手入れが大変じゃない、誰が掃除するのよねー、建太」と横にちょこんと座る建太を見遣る。
健次は横を向いた桜唇に微笑みが溢れるのを見逃さなった。

「わかったよ、お風呂は僕が掃除する」
「えっ、ほんとうに!」
と亜希子が裕一の顔を覗き混んだ。

「はいはい、私が毎回掃除します。だから夢だった檜の浴槽にさせてもらってもいいかな」
「あなたが、お風呂の掃除をしていただけるのなら檜風呂でも構わなくってよ。私の希望は猫足の浴槽だったけど」

「えっ、もしかして君も造作のお風呂が希望だったの、ひどなー」
「約束は約束ですからね」

裕一は苦笑いしながら、
「家族会議の結果、造作風呂に決定しました」
と言いながらテーブルの上を拳で2度叩くと、場が一気に笑いにつつまれる。

健次は笑いをこらえ「わかりました」という。

少女のようにお茶目な笑顔で、
「どこかにスロップシンクをつけていただけるかしら」と加えた。

「そうですね、この「板ニワ」に付けたらいかがですか、そんなに毎日使うものでもないでしょうし、脱衣室には十分な収納も必要でしょう。それとも湯上りにタオルを絞ることでもありますか」

「タオルでゴシゴシ洗うのってあまり肌に良くないと思うので、お風呂ではタオルを使いません。タオルを使うのは湯上りに身体を拭くだけ出るから、脱衣室にシンクはいりませんので、そこでも構いません」

「それでしたら、先日も付けたのですが、この空間に白い衛生陶器を取り付けると空間が台無しになってしまうので、タイル製のシンクなんていかがですか」

「それは嬉しいわ、あなたタイル製のシンクですって、素敵じゃない」


「板ニワ」

木の家づくりや物語 第6話「板ニワのある平家」板ニワ

「板ニワ?って何ですか」

健次は首筋に手をやりながら、
「そうですよね、実は『板ニワ』とは私が作った造語です。少々余談になりますが、一般的に『ニワ』とは戸外住居スペースを指します。特に盗賊対策として間口が狭く奥行きが長い京町家でいえば道路から入ったところが『ロジ』その横、道路に面する前庭を『センザイ』といい、建物背後まで続く土間が『トオリニワ』です。建物の中間に『ナカツボ』があり『ウラニワ』と続き最背部分にあるニワが『ニワサキ』と呼びます。京都などの都市部の住宅でも住宅内に自然の恩恵や融合を図る『ニワ』は、人が健康に生きるためにも非常に重要な役割を果たしたのではないでしょうか。現代で言えば『中庭』と解釈していただいても結構ですが、このような先人の知恵を現代の住宅に生かしたいと。あえて『板ニワ』と名付けました。

この『板ニワ』は、屋根を設置せず床は土間の現代の中庭と異なり屋根を付け、床は屋内と同じ高さで板張りとします。加えてここは内部空間としても外部空間としても機能するよう、ここに網戸とガラス戸か板戸を入れる予定です」
と浴室と居間の外壁を結ぶ線を引いた。

アレルギー対策の住宅を何件も手掛けた健次は、屋外での虫刺されの対策としてもこの「板ニワ」を考えていたのだ。

虫アレルギー・昆虫アレルギーとは、蜂や蚊などに刺されて起こるものや、ダニや蝶、蛾、ゴキブリのようにアレルゲンを吸い込むことにより発症するもの、毛虫のように毛が皮膚に刺さったり触れると起こるものがある。

昆虫アレルギーに限らず、アレルギー疾患の方がいる家族が住宅を新築する場合、新築住宅のアレルギー対策は、アレルギー検査を行い、アレルゲンの特定をしなければならない。
一言で昆虫アレルギーと言っても、ダニやゴキブリなどのアレルゲンを吸引することにより発症する対策には、掃除がしやすく掃除が出来ない場所を作らない設計をすることと、昆虫類の繁殖を抑える素材を選定することだ。蝶や蛾のアレルゲン対策には、少なくとも室外側に網戸を設置して蝶や蛾の鱗粉を室内に入れないことである。毛虫などの対策には作庭時に毛虫が近寄らない樹木を選定しなければならない。

これらに限らず、新築時にアレルギー対策を行うにはデザインや素材、間取りなど詳細に渡り綿密な計画をしなけれなばならず、アレルギーに感心のある設計士との出会いみめぐまれたい。

住宅を新築する際アレルギー疾患であることを告げた時「当社の住宅はすべてフォースターの建材を使っていますので安心ですよ」とか「では厳選した素材を使用しましょう」だとか安易に「自然素材で家を新築しましょう」などと言う相手では落第。
せめても「アレルゲンは何でしょうか?」や「お医者さんでアレルゲンの特定をなさいましたか?」と聞いてくる相手を選びたい。

弾ける笑顔で聞いていた亜希子がいった。
「もしかして建太の虫アレルギーを心配していただいたのですか、屋外なのに屋内にいるときのように安心して外空間を楽しめるのかしら、それなら子供たちが暮らしを楽しむ中心的な空間となりそうで楽しみだわ」
「私が希望していた風呂上りの麦酒も楽しめる」
「網戸が入るなら夏に、ここでテントを張っても虫刺されの心配もなさそうね。デッキチェアーやハンモックも置きたい」
「そうそう、君が気にしていた冬場の洗濯物を干すのも、ここがあれば心配ないんじゃないか」
「そうね、脱衣室から直接ここへ出られるようだから、動線も短いしね」

健次は、したり顔で「そうですね、4畳半の空間ですが使い方は無限に広がり、豊かな暮らしを実現できるのではないでしょうか」と口を挟む。

二人はこの空間を楽しむように次々とアイデアを出し合い最後に、
「この板ニワ気に入りました。この空間をもっと楽しむためにも浴室と板ニワの間の建具は、全開放できるようにできませんか」


テラスキッチン

木の家づくり物語 第6話「板ニワ」のある平家|テラスキッチン

「日常と非日常を楽しむ家として、もう一つの大きな仕掛けは、この『テラスキッチン』です」
思わず、うわずった声に自分自信で驚いた建次は耳のあたりが熱くなる。
一度、咳払いを行い、
「国内で『テラスキッチン』といえば、キッチン近くにテラスをレイアウトした住宅を見受けますが永田さんの住宅では、テラスにキッチンを計画してみました」
「外のキッチンですか」
と亜希子が聞いてくる。
「そうです今考えてるのは間口2700mmほどの、タイルのカウンターに一体型のシンクとコンロです。コンロはさすがに外でガス台やIHは無理でしょうから、市販のバーベキューコンロを置く台にするか、思い切って京都の『おくどさん』ではありませんが、薪を炊いてはいかがかと」
「そんなことできるのでしょうか」
思わず裕一が身を乗り出す。
「基本的には「へっつい」ですが京都では「おくどさん」と呼ばれる薪窯ですから耐火煉瓦で本体を作り、枠はスチールで作れば大丈夫です。裸火が心配なようでしたら焚口に扉をつけることもできますよ」

「なるほど、自宅のテラスでバーベキューができるのか」
裕一がつぶやくと亜希子が続く、
「私は秋に秋刀魚を焼きたいなぁ、パリパリの皮にホクホクの身に焼けた秋刀魚を食べたぁい」
「僕は断然、焼肉に麦酒だな」

「それと煙が出てもいいなら薫製も作りたいわ。冬には鴨肉や鮭の薫製がいいかしら、春は筍の薫製ね初夏には鮎、秋は戻り鰹を藁で炙って、たたきなんて最高じゃない」

「食べ物ばかりではないぞ、木の燃える匂いとか、パチパチはじける音、それに自分自身で火起こしの体験もできるよね。火起こしって難しいと聞きますがどうなんでしょうか、子供たちにも経験させたいので」
裕一は建太の頭を撫でながら聞く。

「種火を作るには、いく通りかあります。マッチやライター以外に市販では『火打ち石』『ファイヤースターター』ですね、古代人が火起こしに使ったといわれる方法では『きりもみ式』や弥生時代から使われていたと考えられる『舞ぎり式』といって厚み1センチ程の板に穴を空け、そこに燃えやすい麻綿を丸めて置き丸棒を回転させ火起こしする方法ですね、丸棒にオモリを挿し紐を取り付けた板を上下させる『舞ぎり式』は私も経験したことがあります。最初はかなり難しいと感じましたけれど数回も経験すれば簡単ですよ、ただ『きりもみ式』は丸棒を手で直接回すので、かなり難易度は高いと思います。よければ大工さんに『舞ぎり式』の道具一式を作ってももらいましょうか」
と言いながら「舞ぎり式火起こし道具」のスケッチをさらさらと描いた。

「私にもできるかな」
と裕一は不安そうな顔で首を傾げる。
「大丈夫ですよ、工事中に火起こし道具を作りますので一緒に試してみましょう」
「それはありがたい、それなら少し危険だけど、もう少し子供たちが大きくなったら薪割りも経験させてやりたいので、薪も手に入れる方法ありますか」
「あっ、それもお任せください。森林組合を通じ薪は手に入れることができますよ。私のところでは国産材の家を作っているので、県内の森林組合や林業家とも仲が良いので木のことなら、どのようなことでもご相談いただけます」
その言葉で裕一の愁眉が開いたように目を輝かせている。

「亜希子いいよね、テラスキッチンお願いしても」
「もちろん!『板ニワ』と合わせて使うと、ますます楽しみが広がりそうじゃない」
笑顔で聞いていた亜希子がうなずく。


居間・台所

木の家づくり物語「板ニワ」がある平家「居間・台所」

「次は居間と台所です」
健次は一呼吸おいて鉛筆で居間を指す。
「お子様が小さな間は、なるべく居間に家具類を置かない暮らしが良いと思います。それは動きやすく遊ぶことができることや危険な角を少なくして走り回っても少しでも安全性を高めたいこと、掃除がしやすく埃やダニを取り除きやすくするためです」

「そうよね部屋に家具がたくさんあると危ないし、ものを退かしながらの掃除は結構大変で、ハンディークリーナー買ったのですけど集塵部分が紙パックではなく、その集塵部分を掃除するのが、またとても面倒で結局、掃除の回数が減ってしまうんですよね〜」
亜希子は実感を込め、しみじみと答え、さらに続けて尋ねる。
「ところで、このソファーは?」

健次は待ってましたと笑顔を浮かべ、ソファーの提案をした。
「床座で座布団の暮らしも良いでしょうが、座布団に躓いて転んでも危ないので、背もたれ付きのソファーを壁面に置いてはいかがかと思います。ソファーは造り付けにすると移動が難しく、レイアウトの自由度が減るので図面にも書いてある通りソファーは造作で5脚を作り、前脚には滑り止めのパッキンを付け後脚にはキャスターを取り付け、手前を持ち上げて簡単に移動できるようにしては如何でしょう」

「本当に!ソファーも製作していただけるのですか」
「本体の脚部分は無垢材で家具を製作している家具屋さんにお願いします。移動することを考えているので、なるべく重さが軽くなるようにデザインします。クッションもオーダーしますから、クッション素材や布地、サイズも自由に選ぶことができます。クッション材は羽毛やフェザー、綿などの自然な素材からも選ぶことができますよ」

「家具といえば、ニトリや東京インテリア、大塚家具さんの既製品家具しか頭になくオーダーするなんて考えてもいなかった。オーダーすれば機能もサイズも素材も自由になるのね」
「ほんとだね僕も考えていなかったよ。それにここにはソファーがあると便利そうだから、一応計画に入れておこうよ。もし予算が合わなかったら、その時はオーダーを止めることもできますか」

「それはもちろんです。私たちは幾つもの提案やアイデアをお伝えいたしますが、それはあくまでも選択肢を示しているだけで、それを選ぶのは永田さんご自身ですから、ご夫婦で十分に話し合われてお決めください。

健次は意外と堅実で慎重な裕一の姿を見た。専門家は住宅の設計、特に間取りの段階で色々な提案を行うことが多い。逆にいえば全く提案をしてくれず、施主の意見だけを聞いて設計する設計者では、ご自身が望む以上の質の高い住宅を手に入れることは困難であり不運なことはない。決して、そのような相手と新築計画を行ってはいけない。

住宅の新築は、一生に一度かもしれない高額な出費になる。住み手が良い家を手に入れたいと望むなら決して遠慮することなく、相談前から諦めることなく住宅への希望だけでなく暮らし方への願いも、どのような些細なことも相手に伝えるべきだ。そして何度も言いますが、施主の希望を正面から受け止め、知識や経験、閃きを総動員して真剣に考える相手を選ぶべきです。
打ち合わせ時に何か設計者へ希望を伝えると考えることもなく頭っから、
「それは難しいです」や「出来ません」「ちょっと無理ですね」などという住宅会社、設計者と家づくりをしてはならない。

「ソファーの話が先になりましたけれど居間全体としては、およそ23帖になります。空間的には先ほど説明いたしました「板ニワ」と「テラス」方向に開口を設けているので、空間の抜けはいいとお思います。特に「板ニワ」の床に居間と同じフローリングを使い、ここの開口部には全開可能なサッシを使えば一部屋として広がりが増します」

「そんなことまでできるのですか?まさに自由自在な家づくりですね」
亜希子は目を大きく開き、感心した様子で呟くと健次は微笑みを隠さず唇をほころばし、
「そうですねご家族に合わせて作る注文住宅ですから、ご希望は、どんな些細なことでも仰って下さい。全てとは決して言いませんが、出来うる限りご希望に添うよう考えます」
と答え続ける。

「平家のお宅ですから天井の高さは割と自由になります。このお住まいでは低いところで2200〜2300ミリ程、部屋の中心部あたりで3200ミリ程までとれます。活動的な居間にされるなら高い方が良いでしょうし、落ち着いた雰囲気にされたいなら低めの方を好まれる方もいらっしゃいますね」
健次は以前の経験から天井高さは、個人に合った高さがあることを痛感している。その家は同じく平家の家で天井高さは棟をも室内に見せ、目一杯の高さにしたところ住み始めて数年後、天井の高さを低くして欲しいとの依頼を受けた。
理由をご主人に聞くと「妻が言うには天井が高すぎて落ち着かない」ということであった。

「私は高い方が良いけれど、あなたはどちらかといえば低い方が良いのかしら」
亜希子は裕一の方を向く。
「そうだな天井の高さなんて、およ2.5メートルほどでフラットだと思っていたからなぁ。でも天井が高いと、そこで子供たちがボール投げなんかもできるのかな、いっそのこと両方の良いとこ取りなんてできないかな」
「そんな無理言わないの、それじゃ、どっちでも良いってことになるわよ」
亜希子は少々怪訝な顔になった。

そんな二人のやりとりを見て健次が、すかさず口を挟む、
「いやいや『掛込み天井』といって、お茶室などに見られる斜めの天井と平天井を組み合わせる方法もありますよ。本来『掛込み天井』とは屋根裏部分を化粧仕上げにして、そのまま見せた天井をいうのですが今では斜天井と平、フラットな天井を組み合わせた天井にも使われますね。この居間でしたら台所と食堂部分は2200ミリほどの低い天井にして落ち着きのある空間として、居間部分は高い天井にしてはいかがですか」

オーダーキッチン

木の家づくり物語「板ニワのある平家」|キッチン|

「対面型のキッチンと伺っていたのですが、お友達とホームパティーを開くなら、キッチンは複数人で台所に立て、動きやすいアイランド型で計画しました」

目を輝かせて聞いた亜希子は
「予算的にも、あまり大きな家を望めないのかと思っていたので、本当はアイランド型に憧れていたのです。でもアイランド型って結構スペースを必要とするから残念だけど諦めようかなって思っていたの」

「そうですか、それならアイランド型にして良かったです。ただし、お子さんがまだ小さいのでコンロ側のキッチンサイドには、何か柵みたいなものを引き出せるように計画しておきます」

「そしていただけると安心だわ」と亜希子は言い、なにやら続きの言葉を選び口を開く、
「皆さん選ばれるキッチンセットって、どこの製品が多いですか」

「そうですね私自身が新建材を使用したくはありませんので、オールステンレスかオールホーローの製品をお勧めいたしております。でも、いずれにしてもワークトップの下地には合板やMDF、OSBなどの新建材を使っているので、新建材を全く使いたくないと、ご希望される方には既製品と同じくらいの予算で、オーダーメイドのキッチンをお勧めしています」

「既製品と同額で、オーダーメイドキッチンもお願いできるのですか」
オーダーメイドキッチンは雑誌やウェブで目にしたことがあっても、初めから予算が合わないだろうと諦めていた亜希子は明るい声で答える。

「キッチンの基本はキャビネットとワークトップです、素材を選び組立方を考えれば、そんなに費用を掛けずともできます。それにキャビネット部分は引き出しでも扉でも引き違い戸、あるいは棚板だけでも自由に選べます。
また、素材も自由に選べてサイズも自由になります。例えばパンをよく作る方は石のワークトップを選ばれますし、ヘビーユーザーの方は厚み10ミリほどのステンレストップにしますね、またキッチンもインテリアの一部としたい方は無垢板の一枚板を好むようですし、少数ですが、お好みでタイルを選ばれる方もいらっしゃいます」
健次は、これまで施工してきた例をいくつかあげる。

「収納方法も自由にできるのですね」
「収納方法もサイズも自由にできますし将来も自由に変更できます、また棚板も無垢板でもステンレスパイプや金網を使い通気性の良い棚板も作れます。引き出しをご希望でしたらその深さも自由になりますよ、スプーンなどでしたら深さ3センチほどで良いでしょうし、お皿でしたら25センチほどが使いやすいでしょうか、どのような深さでもオートクローザー金物をつけることも可能です」

「オートクローザーって引き出しを押し込むと最後は自動で閉じるって、あれですか。システムキッチンのショールームで見た時に便利だなって、それに子供が引き出しでの指挟みも防げるのかなと考えていました」
と亜希子が微笑んでいる。

システムキッチンとオーダーキッチンの大きな違いは、住宅の清潔さにあると、いえば少々誤解を招くかもしれないが、国内メーカーが製作するシステムキッチンの多くは複数の箱を床に置き、その上に天板を固定する。もちろん、システムキッチンは一枚のワークトップを使うため、トップに隙間はなく水やゴミが隙間に入り込むことなはいが、その基本構造は複数の箱を並べ1枚のワークトップを固定する「ブロックキッチン」あるいは「セクショナルキッチン」と呼ばれる単体の箱を並べるキッチンセットと同じ床の上に箱を置く構造だ。置き家具も同じで、キッチンの箱底と床面の間に空間が生じるため、そこは埃や汚れの温床となり埃や汚れの温床となれば、そこにはダニやカビが繁殖、もちろんゴキブリも大量に巣くうことになる。さらに置き家具であれば、ちょっと頑張って家具を移動し掃除をすることができるが、キッチンには給水管や排水管、電線、時にはガス管が接続されており、掃除のため簡単に移動させることはできないため、住宅内で最も清潔であるべき空間が、住宅内で最も不潔な空間となる場合が生じる。

ただし、大手キッチンメーカーの一つ「TOYO KITCHEN」は、このキャビネット下部分の住宅内汚染を解決しただろうと思われる、キッチン下に100ミリほどの空間を空け掃除をしやすくした製品もある。

「下のお子さんが昆虫アレルギーでしたら、住宅内に掃除ができない場所を作ってはいけません。特にキッチンは湿気も多くなりがちで、キッチンのベースキャビネット内部や底裏は汚れやすく、常に清潔に保つには簡単に掃除ができる構造にしておくべきです。それにはオーダーキッチンにすべきだと思います」
健次は昆虫アレルギーの子供のため、掃除がしやすく清潔に保たれるオーダーメイドのキッチンを強く勧めた。


多用途に使う「子供室」

木の家づくり物語「板ニワの平家」子供室

建次が子供室のプレゼンに入ろうとすると亜希子が、
「問題の子供室よね。この子たちは何歳になると個室を必要とするのかしら、何かの統計では小学校入学時に個室を与える親が多いと読んだけれど、本当にその年齢に個室が必要とは思えない」といった。

子供部屋への考え方、与える時期は「親の教育方針と子供の個性・特性を見抜く親の力」が求められると考える建次は、
「同感です。お子さんにも個人差があるわけですし、家庭内の環境によっても異なると思います。室名は主目的の子供室としていますが、使い方は自由で良いのではないでしょうか。そのためにも子供室は間仕切り壁で仕切ることなく、一部屋にしました。お子さんが幼い間はプレイルームとして滑り台やプラレールを部屋一面に広げたり、紙ヒコーキを飛ばしたり独楽や竹ポックリなんかも少し広めで何も置いていない部屋が必要になるでしょう。そんな感性を育む遊びの部屋というのか、家庭内保育園のような場所があっても良いのではないでしょうか」

「なるほど、この子たちには、まだ個室は必要ないと思っていますが、遊びの空間は必要だと思っています。それも散らかし放題にしておくより、何か自分で考え、お片付けまでできるようにしてあげたい」

「それでしたら、将来は本棚にできるようにする玩具箱あるいは玩具棚のような収納棚を考えましょうか。一緒に登り棒や雲梯などを組み合わせた、ジャングルジムのような収納も考えられないかな」

「あっ!それ良いですわね」
と、満面の笑みで亜希子が答える。

「雲梯は俺も欲しいかな、最近、腰の調子がイマイチだから腰を伸ばしたいんですが、本格的に建物に取り付けること出来ませんか」

腰に手を当てながら裕一が加わる。

「それでしたら、この廊下部分はいかがでしょうか。この天井高さは2,200ミリほどで良いかと考えていたので、少し天井高さを上げ2,200ミリほどの高さに雲梯を取り付けることができます」

「いいね、いいね、それでお願いします」
「あなた、ご自分のことも大切でしょうが、子供たちのことも真剣に考えて下さいよ」
亜希子はちょっぴり顔を膨らませて続ける、
「子供たちが将来、学校のお勉強をする年になった場合、やはりこの子供室に机を置くことになるのかしら」

「小学校低学年から個室で勉強する子は少ないと思います。少なくとも小学校の間は、お母さんの近くでお勉強することになるのではないでしょうか。そこで先ほど居間で説明させていただいた通り、このオーダーで制作するソファーを移動して、この部分に奥行き500ミリほどのカウンターを一枚、造り付けてスタディーコーナーを設けてはいかがですか」

建次は家族の年齢や暮らし方に合わせ、柔軟に対応できる家づくりを目指している。住宅は暮らしの舞台装置だともいえる、暮らしの舞台が変われば当然、その舞台装置も変化できなければならないと考える。
住宅の設計は現在だけを設計していてはならない、将来も設計しなければならないのだ。

何かに気づいたのか裕一が、もわっと「?」を膨らませた顔で、
「敷地北側にも空地があり庭になっているんですね」
と聞く。
「いやだ、あなた今更なによ」

「いやいや、先に説明をしなかったようで失礼しました」
建次は軽く頭を下げ、さらに、
「住宅の形は南面を広くするため、東西に長い長方形を基本としました。敷地に余裕があると思いましたので玄関の北西側に駐車場を設け、北東側は庭としました。ちょうど子供室北面になります。北側の景色は太陽の陽射しがあたり、ここに樹木を植えると日の光が木々の葉にあたりキラキラと輝き、室内からはとても美しく見えます。お子様が子供室で勉強を始める頃、机から目を上げると庭の樹々が輝いて見えると気分転換にもなるでしょうし、目にも良いのではないかと思い子供室は北側に、さらにその前には樹々を植えるスペースを確保しました」と加える。

「なるほどね〜」
「なんだか敷地も含め、住宅全体が計算し尽くしているというか、些細な部分にまで神経が行き届いているというか、言葉もないわ」

「私は『神は細部に宿る』という言葉が大好きなんで・・・」と建次は明るく答えた。


落ち着きがある「寝室」

木の家づくり物語「板ニワがある平家」寝室

寝室が9帖、ウォークインクローゼットは4帖、寝室前には半帖の前室、横には同じく半帖の寝室側から使う収納が付く。

「現在の寝室をどこにされるか詳しく伺っていなかったので、主寝室は8帖より少し広めの9帖としてあります」

「現在の寝室って?」亜希子がポツリっと呟く。

「今はまだお子さんと一緒にお休みになると思います。それで、この間取りで言えば、この子供室を現在の主寝室としても良いですし当初から、この寝室を主寝室として使われてもいいのかなと。あるいは夏と冬に寝室を変えても良いのかとも思います」
と建次が伝える。

「そうね、それも良いかもしれませんが、基本的に私は最初から寝室を使いたいわ、あなたは」

「そうだな、僕も子供部屋は最初から子供の空間としてとっておきたいからな。僕も最初から寝室で寝起きする方が良いと思う。子供部屋は夏にでもサプライズ空間として使ったら良いかも、なんか昔のそう、小学校時代の林間学校を思い出すな」

「まさか寝袋を買おうなんて言わないでね」
「でも、子供たちは喜ぶかもしれないぜ」

健次は住宅の使い方をあれこれ話すふたりを見て、この家族は上手くこの住宅を使いこなしてくれるだろうと胸が膨らみ顔が緩む。
「寝室の話をしましょうか」との言葉に図面に注がれた2人の視線を確かめ、
「壁の真ん中に窓があると、なんだか落ち着かない部屋になりがちなので、壁の片側に配置してあります。そして大きな壁で囲まれるようにベッドを置くと落ち着いた雰囲気の寝室になると思います。さらに対角線上に開口部を設けることで、風通しの良い部屋にできます」

「普通、窓って壁の真ん中に設けるものばかりと思っていたわ、そう言われて想像してみると確かに壁に囲まれてベッドを置く方が、なんだか落ち着きそう」
「君、そんな空間想像できるの?僕には、ちょっと無理かな想像できない」

「大丈夫ですよ、多くの方がご主人と同じことを仰います。そのためプランニングの最中に主な部屋のインテリアパースを描きながらプランニングします。これが主審室のインテリアパースになります」
と言いながら建次は2枚のパースを両人の前に広げた。片方は壁の真ん中に開口部があり、もう一方は壁の片方に開口部があるパースだ。

「なるほど、同じ部屋とは思えないくらい全然印象が違いますね。こうして比較してみると、窓は片方に寄せた方が落ち着きがあるように思えます」

「ねっ!私が想像した通りでしょ」亜希子は胸を張り裕一を見つめる。

「特に寝室の開口部には障子と襖を入れておこうと思うのですが、いかがですか?」
との建次の提案に亜希子が答える。
「寝室には遮光性のカーテンかな?って考えておりましたが、襖を入れていただけるのでしたら、とても嬉しいです。ただ障子は紙の張り替えが大変そうなので襖だけでも良いかな」

「わかりました。では襖だけ入れておきましょう」


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